法定相続分での相続登記の後に遺産分割による所有権の取得の登記手続について

【事例】

Aは甲土地を所有しておりその登記もされているところ、Aが死亡して相続人である配偶者B(持分6分の3)と子CDE(各持分6分の1)が甲土地について法定相続分とする共同相続の所有権登記(登記①)をしました。その後、Bが死亡し相続人CDEの遺産分割協議によりCが相続することとなり、それに基づいて甲土地におけるB持分をCに移転する登記(登記②)がなされました。

その後、Aの相続について遺産分割調停がなされ、Cが単独で相続する旨の調停が成立しました。ところが、その後にCが死亡した際には、上記調停の内容に従った登記をすることなく、Cの相続人Fを共有者とするC持分移転登記がなされました(登記③)。また、その後、Fが死亡した際にも同様に、上記調停の内容に従った登記をすることなく、Fの相続人Gを共有者とするF持分移転登記がなされました(登記④)。

以上の事例において、Gを単独所有者とする登記手続は、どうすればよいでしょうか。

【回答】

Gの単独申請により、①登記④についてGを単独所有者とする更正の登記、②登記③についてFを単独所有者とする更正の登記、③登記②についてCを単独所有者とする更正の登記、④登記①についてBを単独所有者とする更正の登記を連件申請することができます(登記②③④については、「登記の目的」を「所有権移転」と更正します)。この場合の登記原因は「年月日(遺産分割調停が成立した日)遺産分割」とし、登記原因証明情報として、遺産分割の調停調書の謄本を提供します。

【解説】

(1) 従来の取扱い

上記の事例では、Aの相続人の法定相続分での相続登記がなされているところ、Bが単独で相続する旨の遺産分割調停が成立しました。この場合において、従来は、「遺産分割」を原因とし、遺産分割により持分が増加したBを登記権利者、持分が減少したCDEを登記義務者とする共同申請による持分移転の登記をすべきとされており、登記権利者が単独で申請することはできないとされていました。また、その場合には、一般の移転登記手続と同時に、登記義務者の印鑑証明書や登記識別情報(または登記済証)が必要でした。

(2) 従来の取扱いの変更(単独申請による所有権の更正の登記)

ところが、令和5年3月28日の通達では、すでに法定相続分での相続登記がされている場合において、遺産分割の協議・審判・調停による所有権の取得に関する登記をするときは、所有権の更正の登記の方法によることができ、かつ、登記権利者が単独で申請することができることとされています。これは、法制審議会の方針を受けたものといえるでしょう。

この更正の登記の申請に当たっては、登記原因およびその日付を「年月日(遺産分割の協議・調停の成立・審判の確定した年月日)遺産分割」とします。また、登記原因証明情報として、遺産分割協議書(当該遺産分割協議書に押印した押印した申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含みます。)、遺産分割の審判書の謄本(確定証明書付き)、遺産分割の調停調書の謄本を提供します。

したがって、【事例】において、Aの相続について遺産分割調停が成立したときであれば、Bが所有権更正の登記を単独で申請することができます。

(3) 遺産分割での所有権の取得の登記が未了の間に相続登記がなされた場合

もっとも、遺産分割が成立したにもかかわらず、既存の登記(【事例】における登記③および登記④)に基づいて相続登記がなされている場合には、どのよう手続をすべきでしょうか。

この点については、連件申請により、①登記④についてGを単独所有者とする更正の登記、②登記③についてFを単独所有者とする更正の登記、③登記②についてCを単独所有者とする更正の登記、④登記①についてBを単独所有者とする更正の登記をするのが相当であると考えられます(登記②③④については、「登記の目的」を「所有権移転」と更正することになります)。

これは、数次の所有権移転登記の抹消については、順位の新しい登記からさかのぼって順次抹消の手続を採るべきされているから、また、所有権の更正の登記は、実質的には一部抹消としての性質を有するからです。

また、この更正の登記は、令和5年3月28日の通達の取扱いにより、Gが単独で申請することができます。

(参照条文)不登60条、26条、22条、61条、不登令16条2項、18条2項、

(参考先例)昭和28年8月10日民甲第1392号民事局長電報回答、昭和42年10月9日民三第706号民事局第三課長回答、令和5年3月28日民二第538号民事局通達、昭和41年5月13日民甲第1180号民事局長回答、昭和51年10月15日民三第5415号民事局第三課長回答

(参考文献)幸良秋夫「全訂設問解説 相続法と登記」(2023年、日本加除出版) 500頁以下、544頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)