債務不履行2(履行の強制)

(1) 履行請求権

債務者が任意に債務の履行をしないときは、履行の強制を裁判所に請求することができます。これは、債権者には履行請求権が認められており、その内容を強制的に実現できるということです。

(2) 履行の強制の方法

 ① 種類

では、どのような方法で債権は実現されるのでしょうか。履行の強制の方法には、直接強制、代替執行、間接強制があります。各方法の手続については、民事執行法等の手続に関する法令に定められています。

直接強制とは、債務の内容をそのまま実現する方法のことです。例えば、金銭の支払い、絵画の引渡し、土地の明渡しの場合などです。

代替執行とは、債務者以外の者に債務の内容を実現させ、その費用を債務者から取り立てる方法のことです。例えば、建物の取り壊しの場合です。

間接強制とは、債務者が履行しないなら1日につきいくら支払えというように、一種の制裁金を課して債務者が履行するように間接的に強制する方法のことです。この金銭は、国庫に帰属するのではなく、債権者に支払われます。

 ② 利用可能な方法

 (ア) 金銭債務

金銭債務については、原則として、直接強制のみが認められます。債務者の一般財産の中から適当な財産を差し押さえ、換価し、その金銭を債権者に交付するという方法により行われます。

ただし、扶養義務等に係る金銭債務については(例えば、両親が離婚した子の父に対する養育費請求権)、一定の要件のもとに、間接強制が認められています。

 (イ) 物の引渡債務

物の引渡債務については、債権者は、直接強制または間接強制を選択できます。直接強制は、不動産なら、執行官が債務者の占有を解いて債権者に占有させるという方法により行います。動産なら、特定物・不特定物(種類物)を問わず、執行官が債務者のところへ行って目的物を取り上げて債権者に引き渡します。

間接強制は、直接強制が可能な場合にも、債権者の申立てにより利用することができます。

 (ウ) 作為債務

作為債務(債務者の行為を目的とする債務のことです)のうち代替執行が可能なものについては(例えば、建物を取り壊す場合です)、代替執行または間接強制を選択できます。例えば、建物の取り壊しは、解体業者に請負として取り壊しをさせ、請負代金をあとで取り立てることになります。

作為債務の一種として、意思表示をする債務については、意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定したときなどには、債務者は、その確定などの時に意思表示をしたものとみなされます。例えば、農地の売買における農業委員会等への許可申請をなすべき債務などです。これは、この債務において、債権者に必要なのは、債務者が意思表示をすること自体ではなく、意思表示により生じる法的効果だからです。

これに対し、作為債務のうち代替執行が不可能なものについては(例えば、財産管理人が任務終了に際して管理の精算行為をなすべき債務などです)、間接強制によるしかありません。

もっとも、作為債務のうち代替執行が不可能なものについては、間接強制さえ許されないものが少なくありません。例えば、夫婦の同居義務、作家の執筆債務などです。このような債務は、あくまで債務者の自由意思にりより履行されるべきものだからです。

なお、作為債務については、債務者を監視して強制的に行為をさせるという直接強制の方法により行うことは、強制労働になるから許されません。

 (エ) 不作為債務

不作為債務のうち代替執行が可能なものについては(例えば、看板を設置しないという契約に違反して設置された看板を撤去する場合などです)、代替執行または間接強制が選択できます。

これに対し、不作為債務のうち代替執行が不可能なものについては(汚水の排出をやめさせることなどです)、間接強制によるしかありません。

 (オ) 損害賠償

履行の強制がされた場合でも、債権者に損害が発生すれば、賠償請求ができます。例えば、履行が遅れたことによる損害です。これは、債務不履行の効果なので、当然のことであるといえます。

(3) 要件

履行の強制裁判所に請求するための要件としては、①債務者が履行しないこと(債務不履行の事実があること)、②債務の性質が履行の強制を許さないものでないこと(前述した夫婦の同居義務・作家の執筆債務などです)、③履行が可能であること、④不執行の特約がないこと、とされています。

(参照条文)民法414条、412条の2第1項、民事執行法43条以下、122条以下、143条以下、167条の15、167条の16、168条、169条、172条、173条、177条

(参考文献)内田貴「民法Ⅲ(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会、2020年)132頁以下

中田裕康「債権総論(第4版)」(岩波書店、2020年)90頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)