(1) 序説
契約をするにあたって、その効果の発生・消滅が一定の事実にかけられている場合があります。これを契約の附款といいます。附款を設けること自体もその内容も当事者の意思によって定まるから、附款の効力についても、原則として、当事者の意思によって定まることになり、附款についての民法の諸規定は、当事者の意思を推定する意味をもつものといえます。契約の附款には、条件と期限があります。
(2) 条件
① 意義
(ア) 停止条件と解除条件
条件とは、契約の効力の発生・消滅を発生するか否かの不確実な事実にかけられている旨の附款のことです。条件のうち、一定の事実の発生により契約の効力が発生するものを停止条件といい、一定の事実の発生により契約の効力が消滅するものを解除条件といいます。例えば、Aが、今年の1月に、今年の司法書士試験にBが合格したらA所有の甲パソコンを贈与するという契約をした場合が停止条件です。また、Aが、今年の1月にその所有する甲パソコンを贈与したが、その際にBが今年の司法書士試験に不合格だったら、その贈与を失効させる旨の定めがある場合が解除条件です。
いずれの場合も、Bが今年の司法書士試験に合格したら、甲パソコン贈与の契約は確定的なものとなり、不合格だったらその契約は効力を失うことになります。ただ、1月から司法書士試験の合否の確定までは、この贈与は不確実な状態にあるが、停止条件の場合は、契約はいまだ効力を生じていないので、BはAに対して甲パソコンの引渡しを求めることができませんが、解除条件の場合は、契約はすでに効力を生じているので、BはAに対して甲パソコンの引渡しを求めることができます。
(イ) 附款が条件であるか期限であるかの判断基準
例えば、債務者が「出世したら支払う」旨の附款について、不確定期限を定めたものであって、停止条件を定めたのではないとした判例があります。これは、出世払いの附款の趣旨は、出世の事実により債務が発生する趣旨ではなく、すでに発生した債務の履行について、出世という事実により制限する趣旨だからです。したがって、債務者が出世したときだけでなく、出世しないことが確定したときにも、債務者は支払いをする義務が生じることになります。
このように、附款の趣旨がどのようなものであるかによって、条件か期限かが決まり、その附款の効果が変わってくるのです。
② 条件付き契約の効力
(ア) 一般的効力
不法な条件を定めた契約や、不法な行為をしないことを条件とした契約は、無効です。90条を具体化した規定です。
実現不能な停止条件を定めた契約は、無効です。また、実現不能な解除条件を定めた契約は、無条件の契約となります。これらは、条件を定めていないのと同じだからです。
債務者の意思にだけかかる停止条件を定めた契約は、無効です。例えば、Aが望んだときにBに100万円を贈与するという契約をした場合です。これは、このような契約には法的効果を発生させようとする当事者の意思が認められないと考えられるからです。
(イ) 条件成就の効果
停止条件付きの契約は、条件成就の時から効力が発生します。解除条件付きの契約は、条件成就の時に効力を失います。すなわち、条件成就の効果はさかのぼらないのが原則です。ただし、当事者が条件成就の効果を、成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従うことになります。
条件が契約の時にすでに成就した場合においては、停止条件であるときはその契約は無条件となり、解除条件であるときはどの契約は無効となります。また、条件が成就しないことが契約の時に確定していた場合においては、停止条件のときはその契約は無効となり、解除条件のときはその契約は無条件となります。これは、条件となった事実は客観的には契約の前に確定しているからです。
③ 条件の成否の擬制
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が、故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができます。例えば、Bが今年の司法書士試験に合格したら100万円をBに贈与するという契約をしたAが、相手方Bの受験を妨害した場合には、Bは今年の司法書士試験に合格しなくてもAに100万円を請求することができます。これは、条件が成就しなかったものとすることが信義則に反するからです。
また、条件が成就することによって利益を受ける当事者が、不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができます。例えば、Bが今年の司法書士試験に合格しなかったら100万円をAに贈与するという契約をしたAが、相手方Bの受験を妨害した場合には、AはBに100万円を請求することはできません。これは、条件が成就したものとすることが信義則に反するからです。
④ 条件の成否未定の場合の保護
条件付き契約にあっては、条件成就によって利益を受ける当事者は、条件の成否未定の場合もその利益に対する期待を有しており、それは法的保護の対象とされています。
(ア) 相手方の利益の侵害の禁止
条件付き契約の各当事者は、条件の成否未定である間は、条件成就による相手方の利益を侵害してはなりません。例えば、売主Aと買主Bとの間で停止条件付売買契約を締結したが、Aがその目的物を故意・過失によって毀損したり、第三者に売却したりすることで、条件が成就したときに目的物の引渡しが不可能になった場合は、AはBに対し、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
(イ) 権利の処分等
条件の成否未定である間における当事者の権利義務は、処分することができ(譲渡・その権利自体を担保の対象とすることをいいます)、相続の対象となり、保存すること(不動産に関する権利の場合、仮登記などをすることをいいます)ができます。
また、その権利を担保するために保証人をたてたり、抵当権を設定したりすることができます。
(3) 期限
① 意義
期限とは、契約の効力の発生・消滅ないし債務の履行義務を将来到来することの確実な事実の発生まで延ばす旨の附款のことです。期限のうち、事実の到来により契約の効力や債務の履行義務が発生するものを始期といい、事実の到来により契約の効力や債務の履行義務が消滅するものを終期といいます。
② 期限付き契約の効力
(ア) 期限の到来
期限は必ず到来するものなので、不確実な事実の到来を弁済期と定めた場合に、その事実の不発生が確定すれば、そのときにも期限が到来したことになります(例えば、出世払いの債務)。
(イ) 期限到来の効果
期限が到来したときは、始期付き契約の場合は、期限が到来するまでその債務の履行を請求することができず、終期付き契約の場合は、期限が到来した時にその契約の効力が消滅します。
(4) 期限の利益
① 期限の利益を受ける者
期限の利益とは、期限を定めることによって、それが到来するまでの間に当事者が受ける利益のことです。期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます。これは、債務の履行に期限を定めるのは、通常は、債務者に履行の猶予を与えるためだからです。もっとも、期限が、債権者の利益のために定められる場合、債権者と債務者の双方の利益のために定められる場合(例えば、銀行の定期預金)もあります。
② 期限の利益の放棄
期限の利益は、放棄することができます。例えば、債務者が期限前に弁済する場合です。ただし、期限の利益の放棄によって、相手方の利益を害することはできません。したがって、期限の利益の放棄したことによって、相手方の利益を害した場合には、相手方が受けた損害を賠償しなければなりません。期限が相手方のために定められた場合にも、相手方の損害を賠償したうえであれば、期限の利益を放棄することができるとされます。
③ 期限の利益の喪失
期限の利益の有する債務者が、①破産手続開始の決定をうけたとき、②担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき、③担保を供する義務を負う義務があるにもかかわらず担保を供しないときには、期限の利益を主張することができなくなります。その結果、期限が到来し、直ちに弁済しなければなりません。これは、上記のような事実は、債務者の信用を失わせることになると考えられるからです。
また、当事者間の契約で、一定の事実が存在するときに期限の利益を失う旨を定めることができます。このような条項を「期限の利益喪失条項」と呼んでいます。これには、定められた事実が発生すると当然に期限が喪失するという趣旨のものと、そのような事実が発生したときに債権者は期限の利益を失わせることができるという趣旨のものがあります。後者の場合において実際に期限の利益を喪失させるには、債権者からの意思表示が必要です。具体的な条項がそのいずれに該当するかは、契約の解釈の問題です。
(参照条文)民法127条、132条、131条1項2項、128条、415条、709条、129条、135条、136条、137条、不登法105‐110条
(参考判例)大判大正4年3月24日民録21輯439頁、大判昭和9年9月15日民集13巻21号1839頁
(参考文献)鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)207頁以下
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)399頁以下
(司法書士・行政書士 三田佳央)