代理(効果帰属要件)

(1) 代理とは

代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生じます。例えば、Aの代理人であるBが、Cとの間で、C所有の甲土地を購入する契約をする場合には、BC間における売買契約の効力は、Aに対して直接に生ずることになります。すなわち、Aは甲土地の所有権を取得し、Cに対して代金支払義務が生じるのです。

また、第三者が代理人に対してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生じます。例えば、上記のCが、Aの代理人Bに対して、承諾の意思表示をする場合です。

(2) 代理の種類

法律の規定によって代理人となるものを法定代理といい、本人の意思によって代理人となるものを任意代理といいます。両者は、復委任及び代理権の消滅事由において区別されています。

法定代理としては、親権者、未成年後見人、成年後見人、保佐人、補助人、不在者財産管理人、相続財産管理人、相続財産清算人などがあります。法定代理は、取引能力がない者の活動を補充するための制度です。

任意代理としては、委任契約によって代理権が発生した場合などです。任意代理は、本人の取引活動の範囲を拡張するための制度です。

(3) 代理行為の要件

代理人として締結した契約の効果が本人に帰属するためには、①代理権が発生していること、②本人のためにすることを示したこと、③代理人の意思表示があること、が必要です。代理人が、代理人として意思表示をすることを、代理行為といいます。代理行為を有効に行った場合に、その契約の効果が本人に直接帰属することになるのです。

 ① 代理権の発生

代理人の存在は、代理人による契約の効果が本人に帰属するための根拠となります。

 (ア) 法定代理権の発生原因

法定代理権の発生原因は、法律に規定されていますが、それにもいろいろなものがあります。例えば、本人に対して一定の地位にある者が当然に代理人になる場合(親権者である父母)、本人以外の者による協議・指定によって代理人になる場合(父母の協議によって決まる親権者)、遺言によって指定された未成年後見人、裁判所の選任によって代理人になる場合(成年後見人、保佐人、補助人、不在者財産管理人、相続財産管理人、相続財産清算人)などがあります。

 (イ) 任意代理権の発生原因

任意代理権は、本人による代理権の授与行為に基づいて発生します。通常は、本人との委任契約によって代理人になる場合が多いと考えられていました。民法の任意代理人に関する規定において、「委任による代理人」という表現が用いられているのはこのためです。しかし、本人の事務処理をするために委任契約が締結される場合に、常に代理権の授与が伴うわけではありません。また、委任以外の事務処理に関する契約でも代理権の授与を伴うことが少なくありません(雇用・請負・組合契約など)。そこで、現在では、任意代理権は、委任・雇用・請負・組合などの事務処理に関する契約から発生するものと考えられています。

 (ウ) 代理権の範囲

代理行為は、代理権の範囲内でなされた場合に有効となります。代理権の具体的な範囲については、法定代理においては、その範囲が法律で定められているか(親権者、後見人、限定承認における相続財産清算人)、その決定方法が法律により定められています(不在者財産管理人、相続財産管理人、相続人不存在における相続財産清算人、保佐人、補助人)。任意代理においては、代理権を授与する契約によって決まります。

代理権の範囲を明らかにすることができない場合は、①保存行為(財産の現状を維持する行為)、②利用行為(代理の目的である物や権利の性質を変えない範囲内で収益を図る行為)、③改良行為(代理の目的である物や権利の性質を変えない範囲内で財産の価値を増加させる行為)をする権限を有するものとされています。以上の行為をまとめて管理行為といいます。

 (エ) 代理権の濫用

代理人が代理権の範囲内の契約をするのだが、本人の利益のためではなく、代理人自身や第三者の利益のためにすることを、代理権の濫用といいます。例えば、本人Aの代理人Bが、Bが第三者Ⅾに転売してその利益を横領する意図をもって相手方Cから商品を購入する場合です。代理権の濫用があった場合であっても、その契約は、原則として有効です。これは、代理権の範囲内の契約であることに変わりはないからであり、また、代理人の目的が契約の効力に影響を及ぼすことになると、取引の安全を害することになるからです(相手方からは代理人の目的はわかりにくいでしょう)。ただし、相手方が代理人の目的を知っていたか、知ることができたときは、代理権を有しない者がした契約とみなされます。すなわち、無権代理として処理されることになります。このような場合には、相手方を保護する必要がないからです。

 (オ) 代理権の制限(自己契約・双方代理・利益相反行為)

   ㋐ 原則

代理人が相手方として契約を締結することを自己契約といいます。例えば、Aの代理人Bがその相手方として売買契約を締結する場合です。また、当事者双方の代理人として契約を締結することを双方代理といいます。例えば、AC間の売買契約において、BがAとCの代理人として契約を締結する場合です。これらの場合には、原則として無権代理として処理されます。自己契約の場合は、代理人が本人の利益を犠牲にして自分に有利な契約をしてしまうおそれがあるからです。また、双方代理の場合は、一方の利益を図ろうとすると、他方の利益を害することになり、利益相反の関係にあるからです。

このほか、代理人と本人との利益が相反する契約についても、無権代理として処理されます。例えば、Aの代理人Bが、Bが債権者Cに対して負担している債務の保証契約を、Cとの間で締結する場合である。この場合、保証契約によってBは利益を受け、Aが不利益を受けるのであるから、本人Aと代理人Bとの利益が相反することになります。代理人が自分の利益を図り、本人の利益を害するおそれがあるので、代理権が制限されているのです。

   ㋑ 例外

ただし、次の場合には、自己契約・双方代理・利益相反行為に該当しても、代理権は制限されません。①債務の履行の場合、②本人があらかじめ許諾した契約を締結する場合です。

①の債務の履行は、新たに契約を締結する場合と違って、本人の利益を害することがないからです。例えば、所有権移転登記の申請について、弁護士や司法書士が登記権利者と登記義務者双方の代理人となる場合です。

②の本人があらかじめ許諾した契約については、本人に効力を生ずるものとしても問題ないからである。

 ② 本人のためにすることを示したこと(顕名)

 (ア) 顕名の原則

代理行為が有効なものとなるには、代理人が本人のためにすることを示して契約をすることが必要です。これを顕名といいます。これは、代理人が誰のために契約をするのかを相手方に対して明らかにすることによって、契約の当事者についての誤解から損害が生じることを防ぐためです。顕名の方法は、「A代理人B」と資格を示す場合です。相手方の意思表示を受領する場合には、相手方が本人宛の意思表示であることを顕名することになります。

 (イ) 代理人が顕名をしない場合

代理人が顕名をしないで契約をした場合は、代理人自身のためにしたものとみなされます。その結果、代理人は、その契約の効果が自己に帰属することを拒否することができません。これは、代理人はその契約の効果を自己に帰属させる意思がないので、代理人にその効果を帰属することができないとすると、その契約の効果を誰にも帰属させることができず、相手方に損害を被らせることになるからです。

ただし、代理人が顕名をしない場合であっても、相手方が、代理人が本人ためにすることを知っていたとき、または、知ることができたときは、その契約の効果は本人に対して直接に帰属します。この場合、契約の効果を本人に対して帰属させても問題ないからです。

もっとも、商行為の代理人が顕名をしないでした行為であっても、本人に対してその行為の効果が帰属しますが、相手方が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることができるとされています。これは、商行為においては大量継続的取引が多く、顕名は煩雑であり、相手方も本人が誰かを知っていたり、誰が相手方かを重視したりしないこともあるからです。

 ③ 代理人による意思表示

代理行為は、代理人自身が意思を決定してそれを表示します。相手方から意思表示を受領する場合には、代理人が相手方の意思表示を受領します。

 (ア) 代理行為の瑕疵

代理人が相手方に対してした意思表示の不存在、錯誤、詐欺、強迫や善意(ある事実を知らなかったこと)・悪意(ある事実を知っていたこと)・過失(悪意であることについての過失)によって影響を受けるべき場合には、代理人についてその事実の有無を判断することになります。例えば、心裡留保・虚偽表示(意思表示の不存在)によってその意思表示が無効となるか否かは、代理人について判断します。代理人についてこれらの要件を充たされている場合には、代理人の意思表示は無効となるので、本人に対してその効力を生じないことになります。これは、現実に意思表示を行うのは代理人だからです。

また、相手方が代理人に対してした意思表示について悪意・善意・過失によって影響を受けるべき場合にも、代理人についてその事実の有無を判断することになります。例えば、相手方が心裡留保による意思表示を代理人に対してした場合に、相手方の真意ではないことを知っていたことや、知ることができたという事実は、代理人について判断することになるのです。これは、現実に相手方の意思表示を受領するのは代理人だからです。

任意代理人が契約をしたときは、本人が知っていた事情や知ることができた事情については、代理人が知らなかったことを主張することができません。例えば、本人Aの代理人Bが、相手方Cから甲土地を購入する契約を締結したところ、Bに甲土地について錯誤があったとしても、Aに重大な過失がある場合には、錯誤取消しを主張することができません。これは、本人は一定の事情を認識しており、代理人を通じて自己の利益を守ることが可能であったのに、これを怠った本人は不利益を受けてもやむを得ないからです。この規定は、法定代理の場合には適用されません。

 (イ) 代理人の行為能力

代理行為をするには、意思能力は必要であるが、行為能力は必要ではありません。これは、代理人による契約の効果を受けるのは本人であって代理人ではないので、代理人は制限行為能力者(未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人)であっても不利益を受けることがないからである。本人はあえて制限行為能力者を代理人にしているのであれば、代理人が制限行為能力者であることを理由に、代理人による契約の取消しを認める必要がないと考えられます。

ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした契約については、取消しが認められます。例えば、未成年者Aの親権者Bが後見開始の審判を受けた場合です。これは、法定代理人の選任に直接関わっていない制限行為能力者に、その法定代理人が制限行為能力者であることのリスクを負わせる根拠を欠くからです。この場合、BがAの親権者としてした契約は、Aが取り消すことができます。

(4) 復代理

任意代理人は、本人の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができません。復代理人とは、代理人によって選任された代理人のことです。任意代理人は、本人の信任を得て選任されているので、原則として復代理人の選任を認めない趣旨です。104条により復代理人を選任するときは、任意代理人が自己の責任で選任することになります。すなわち、復代理人が本人に損害を加えたときは、復代理人に故意・過失などの帰責事由(責めに帰すべき事由)があれば、任意代理人は常に責任を負うのです。

法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができます。法定代理人の場合は、本人の信任を得て選任されたわけではないので、復代理人の選任を認める必要性があるからです。復代理人を選任するにあたって、やむを得ない事情があるときは、本人に対してはその選任・監督についての責任を負うにとどまります。すなわち、不適切な者を復代理人に選任したことや、監督が不行届きであったことから、本人に損害を加えた場合には、法定代理人が賠償する責任を負います。

これらのことから、代理人は、代理人としての事務を自ら処理するのが原則であるといえます。

復代理人は、その代理権の範囲内で締結する契約について、本人を直接代理することになります。そのため、復代理人が締結した契約の効果は、直接本人に帰属することになるのです。また、復代理人は、本人と第三者に対しては、その代理権の範囲内において、代理人と同一の権利を有し義務を負います。復代理人と本人との間には、本来は直接の契約関係はありませんが、便宜上復代理人は本人に対して代理人と同一の権利義務が認められているのです。そのため、復代理人Cが代理人として相手方Dから受領した物があるときは、代理人Bに対してだけでなく、本人Aに対しても引渡義務を負うことになります。そして、復代理人Cが代理人Bにその物を引き渡したときは、本人Aに対する引渡義務は消滅することになるとされます。いずれの義務も、本人Aに受領した物の引渡しをするという同一の目的を有するからです。

(5) 効果

代理人が、有効に代理人として締結した契約は、本人に直接その効果を生じます。その結果、本人が契約の当事者としての地位に立つので、そこから生ずる取消権や解除権なども、すべて本人に帰属します。

これに対し、有効要件を充たしていない代理行為は、無権限の行為なので、無権代理として処理されることになります。

(6) 代理権の消滅

 ① すべての代理権に共通する消滅事由

代理権は、①本人の死亡、②代理人の死亡、③代理人が破産手続開始決定を受けたとき、④代理人が後見開始の審判を受けたときに消滅します。これらは、任意代理と法定代理に共通する代理権の消滅事由です。

①については、任意代理の場合は、本人から信任を得て代理人となっているので、本人の死亡後に相続人との関係で代理人の地位を当然に継続することは適当でないからです。また、法定代理の場合は、そもそも特定の本人を保護するために代理権が発生しているので、その本人が死亡すれば代理権は当然に消滅するのです。

②については、任意代理の場合は、本人が特定の者を信任して代理権を与えているのであるから、代理人の死亡後に相続人がその地位を当然に承継することは適当ではないからです。また、法定代理の場合は、特定の地位にある者に対して代理権が与えられているのであるから、その者が死亡すれば代理権は当然に消滅します。

③と④については、任意代理の場合は、代理人に破産手続開始決定や後見開始審判があったときは、代理人に対する信頼を失わせることになると考えられるので、代理権を存続させるのは適当ではないからです。法定代理の場合は、法定代理人の破産手続開始決定や後見開始審判は、代理人に財産管理の資質がないことを意味するので、代理権を存続させることは本人保護の観点からは適当ではないからです。

 ② 任意代理に特有の消滅事由

任意代理の場合は、事務処理契約の終了によっても代理権が消滅します。代理権は、事務処理を遂行するために授与されるのだから、委任などの事務処理契約が終了すれば、代理権も消滅するのが適当だからです。委任の終了事由は、①委任の解除(委任は委任者・受任者双方から解除できます)、②委任者(本人)または受任者(代理人)の死亡、③委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと、④受任者が後見開始の審判を受けたことです。この中で、111条1項に挙げる事由と重複していないのは、委任の解除と委任者が破産手続開始の決定を受けたことです。委任の解除があれば、代理権が消滅するのは当然です。本人が破産手続開始の決定を受けたときは、本人は財産管理権を失い、破産管財人が財産管理をすることになるので、任意代理人がそのまま代理権を有するのは適当ではないからである。

委任者に後見開始の審判があったことは、代理権の消滅事由ではないので、本人と任意代理人の間の委任契約については、成年後見人が本人の立場で行動することになります。

(7) 無権代理

 ① 意義

代理権を有しない者が本人の代理人として締結した契約は、原則として本人に対してその効果を生じません。これを無権代理といいます。代理権を有することが契約の効果帰属要件とされているのです。代理権を有しないとは、代理権が授与されていない場合、授与された代理権の範囲外の契約をした場合です。

 ② 追認とその拒絶

本人が無権代理による契約を追認したときは、その契約の効果は本人に帰属します。本人が無権代理による契約が自分に有利であると判断した場合には、本人の追認を認めることが適当です。また、本人は、追認を拒絶することもできます。追認を拒絶すると、無権代理による契約の効果が本人に帰属しないことが確定します。追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ、その効果を相手方に主張することができません。ただし、相手方が追認またはその拒絶の事実を知っていたときは、相手方に追認またはその拒絶をしていなくても、相手方に対して主張することができます。 

追認をすると、契約の時に遡ってその効果が本人に帰属します。これは、本人はすでにされた代理行為に対して追認をするのであり、相手方は初めから有効な代理行為があったものとして行動しているからです。ただし、本人と相手方の「別段の意思表示」によりその効果の帰属が遡及しないものとすることができます。また、遡及する場合でも、「第三者の権利を害することはできない」とされています。例えば、Aの債権について無権代理人Bが債務者Cから弁済を受領し、次に、Aの債権者Dが同じ債権を差し押え、転付命令を得たあとで、AがBの弁済受領行為を追認した場合です。この場合、Dを犠牲にしてAを保護することは適当ではないので、Dとの関係ではAの追認は遡及しません(転付命令がされると、その金銭債権が存する限り、弁済されたものとみなされるので、Dとの関係でAの追認が遡及すると、AのCに対する債権が存しないことになり、転付命令の効力が生じないことになってしまいます)。ただし、第三者との関係は対抗要件の有無で決まることが多いため、116条ただし書が適用される場面は限られています。例えば、Aの所有する甲土地を無権代理人BがCに売却し、その後にAが甲土地をDに売却し、Dを所有者とする登記をした後にAがBの無権代理行為を追認した場合である。この場合には、177条により先に登記を備えたDが所有権を取得することになるので、116条ただし書は適用されません。

なお、AがB所有の甲不動産につきBからAへの贈与契約書を偽造してAを所有者とする登記手続をし、その後、BがAの契約を追認した場合には、116条ただし書の類推適用により、契約時に遡ってAに対してその効果が帰属するとされます。これは、無権利者による契約の締結は、権限のない者による契約の締結である点において、無権代理人による契約の締結と類似するからです。

 ③ 相手方の催告権・取消権

無権代理人が締結した契約の相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。これは、本人により追認やその拒絶がされるまでは、無権代理人がした契約の効果が本人に帰属するか否かが確定しない状況にあるので、相手方が不安定な立場になってしまうことから、その契約の効果の帰属を確定させるために、本人に対して追認をするかどうかの催告権が認められているのです。もし、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなされます。これは、無権代理人がした契約の効果は、本人に帰属しないのが原則だからです。

無権代理人が締結した契約の相手方は、本人が追認をしない間は、その契約を取り消すことができます。本人が追認またはその拒絶をするまで不安定な立場に置かれる相手方を保護するためです。相手方がその契約の取消しをすると、本人は追認することができなくなります。ただし、相手方が契約時に無権代理であることを知っていたときは、取り消すことができません。この場合にまで、取消権を認めて本人から追認の機会を奪う必要がないからです。

 ④ 無権代理人の責任

 (ア) 意義

無権代理人は、原則として、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負うことになります。これは、無権代理人がした契約の効果は、本人に対してだけでなく、無権代理人に対しても帰属しませんが、それでは相手方の利益を大きく害することになるので、無権代理人の相手方に対する責任を認めたものです。この責任は、相手方の保護と取引の安全・代理制度の信用保持のために、法律が特別に定めた無過失責任であるとされています。

 (イ) 要件

他人の代理人として契約をしたことです。これは、相手方が証明すべきものです。これに対して、無権代理人が、相手方による無権代理行為の取消しがあったことを証明すれば、この要件は充たさないことになります。無権代理行為の取消しは、無権代理人との法律関係の一切を解消させる趣旨であるので、無権代理人に対する責任を追及する基礎も解消すると考えられるからです。

無権代理人が、責任を免れるには、①「自己の代理権を証明」するか、または②「本人の追認を得た」ことを証明しなければなりません。これらの事実を証明すれば、代理人がした契約の効果が本人に直接帰属することになるからです。

また、無権代理人が次の事由を主張・証明すれば、無権代理人としての責任は生じません。①代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、②代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき、③代理人として契約をした者が制限行為能力者であるときです。①と②については、代理権の不存在について悪意・過失のある相手方は、無権代理人に責任を認めて取引の安全の観点から保護する必要はないからです。なお、②については、代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、無権代理人としての責任を免れることはできません。この場合には、無権代理人の責任を免れさせる必要がないからである。③は、制限行為能力者を保護するためです。

 (ウ) 責任の内容

無権代理人の責任は、相手方の選択に従い、①履行、または②損害賠償です。この責任は無過失責任です。すなわち、無権代理行為をしたことについて、無権代理人に過失がなかったとしても、この責任を免れることはできないことになります。

例えば、Bが、代理権がないにもかかわらず、Aの代理人としてAの所有する甲土地をCに対して売却した場合、Cが履行の責任を選択すると、CはBに対して甲土地の所有権移転と明渡しを請求できる権利を取得する反面、代金を支払う義務を負うことになります。もっとも、Cが甲土地を所有していないBに対して履行を請求しても、BがAから甲土地を取得することができなければ、履行不能によってCの権利は損害賠償請求権に転化することになります。

 ⑤ 無権代理と相続

 (ア) 無権代理人が本人を相続した場合

Bが父Aを無権代理して、EがDに対して有する貸金債務について、Aを連帯保証人とする契約を締結し、その後、Aが死亡し、Aの妻CとBがAの権利義務を各2分の1ずつの割合で相続により承継した場合、無権代理人Bは、承継した本人の立場で無権代理行為の追認を拒絶して、Dの貸金返還請求を拒むことができるでしょうか。

この点について、判例は、他の共同相続人Cが無権代理行為を追認している場合に無権代理人Bが追認を拒絶することは信義則上許されないとしつつ、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は無権代理人の相続分に相当する部分についても、当然に有効となるものではないとしています。

これは、無権代理行為を追認する権利は、その性質上(本人に対して効力を生じていなかった契約を本人との関係で有効なものにするという効果を生じさせるもの)相続人全員に不可分的に帰属するから、共同相続人全員が共同してこの権利を行使しない限り、無権代理行為は有効なものとならないからです。

このことは、不動産の相続の場合だけでなく、保証債務のような金銭債務の場合であっても変わらないとされています。これは、金銭債務は無権代理人が承継した債務の限度で追認の効果を認めることが可能なように見えるが(Bの相続分である2分の1)、追認はもとの契約(例えば、保証契約)を本人との関係で有効なものにするという効果を生じさせるものだから、相続分の限度で追認の効果を認めることができないからです。もっとも、金銭債務の場合、相手方が無権代理人の責任を追及して履行の請求を選択すれば、それが認められるときには、結論としては無権代理行為全体について追認を認めたのと同じになります。

この判例は、無権代理人が本人を相続した場合、無権代理人としての地位は本人の地位と併存するものの追認の拒絶を信義則により制限している見解に立っているといえます。これは、無権代理人Bの地位と本人Aの地位が一体化し、本人が自ら契約をしたのと同様な法律上の地位を生じたものとすると、無権代理人の相続分に相当する部分については追認を拒絶することができなくなり、本人を相続して追認を拒絶できる資格を承継した他の共同相続人Cおよび相手方Dの利益が損なわれるからです(例えば、不動産を売却する契約が無権代理行為としてなされた場合には、他の共同相続人Cが追認を拒絶する限り、Cと相手方Dがその不動産を共有する状態となり、これを望まないCに不当な不利益を与えることになります。また、Dにとっても共有状態を嫌い115条による無権代理行為の取消権を行使したくてもそれが許されないといった不都合な結果となります)。

この判例の立場によると、Dは、Cの追認がない限り、Bに対して貸金返還請求をすることができず、無権代理人の責任を追及することになるのです。

この判例の立場によると、上記の設例におけるCが相続放棄し、無権代理人Bが本人Aを単独相続した場合には、Bは無権代理行為の追認を拒絶することができないので、その無権代理行為は当然に有効となります。

もっとも、上記の設例において、本人Aが追認を拒絶した後に死亡した場合は、たとえ無権代理人BがAを相続したとしても、Aがした追認拒絶の効果に何ら影響を及ぼすものではないとされています。これは、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効果が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認をして無権代理行為の効果を本人に帰属させることができないからです。

 (イ) 本人が無権代理人を相続した場合

Bの父Aは、代理権がないにもかかわらず、子Bの代理人としてBの所有する甲土地をCに売却し、Cを所有者とする所有権移転登記をした。その後、無権代理人Aが死亡し、本人BがAを相続した場合、BはCに対し、所有権移転登記抹消手続を請求することができるでしょうか。

この点について、判例は、相続人である本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義則に反するものではないから、被相続人の無権代理行為は本人の相続により当然に有効なものとなるものではないとしています。このことからすると、Bは本人の地位で追認を拒絶して、Cに対して所有権移転登記抹消手続を請求することができることになります。

しかし、117条の要件を充たしている場合には、本人Bは無権代理人Aの責任を相続により承継するので、Bは117条1項の無権代理人の責任を負担することになります。ただし、本人は117条の責任を承継しても、履行請求を拒むことができるとする見解があります。これは、本人は本来履行請求を拒むことができ、相手方も無権代理人に損害賠償を請求することしかできなかったのであるから、相続という偶然の事情により、本人が不当に不利に扱われるべきではないからです。

(8) 表見代理

 ① 意義

本来は無権代理なのだが、無権代理行為の相手方の保護が必要であり、かつ本人に責任を課せられてもやむを得ない事情のある場合に、無権代理行為を有効な代理行為として扱い、その効果を本人に帰属させる制度を、表見代理といいます。表見代理が認められる場合として3つの類型が定められています。

 ② 代理権授与の表示による表見代理

相手方に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が相手方との間でした契約について責任を負います。本人がした代理権の表示を信頼した相手方を保護するためです。

 (ア) 要件

  ㋐ 代理権授与の表示

代理権授与の表示による表見代理が成立するには、本人が、相手方に対して他人に代理権を与えた旨を表示したことが必要です。例えば、本人AがBを代理人に選任した旨を相手方Cに表示したが、実際にはBに代理権を与えていなかった場合です。しかし、実際にはこのような事例が問題になることは稀でしょう。実際に多いのは、名義貸しと白紙委任状の流用の事例です。

  (A) 名義貸し

他人に自己の名称・商号等の使用を許したこと、もしくは他人に自己のために取引する権限ある旨を表示したことにより、その他人のする取引が自己の取引であるかのように見える外形を作り出した場合は、代理権授与の表示があったものと認められます。例えば、東京地方裁判所が、その職員が別組織で会社と取引をする際に「東京地方裁判所厚生部」という名義で処理することを認めていた場合です。

  (B) 白紙委任状の流用

例えば、仲介者を通じて融資を受けるに際して、保証人となることを依頼されて承諾したAが、仲介者に白紙委任状(本人が委任状の一部または全部を空白のままにして自己の署名押印をして他人に交付するもの)を交付したところ、その融資が不成功に終わったので、Bがその書類の返還を受け、Cからの借入れを受けるにあたり、Aの代理人として保証契約を締結した場合です。AはCに対し、Bに代理権を与えた旨の表示をしたものと解されるため、その保証契約の責任を負うことになります。

これに対し、不動産所有者Dがその所有不動産に抵当権を設定するため、必要な書類をEに交付した後に、Eがその書類をFに交付し、Fがその書類を利用してDの代理人としてGと不動産の処分に関する契約を締結した場合は、DはGに対し、Fに代理権を与えた旨の表示をしたものとは解されません。これは、抵当権を設定するための書類は転々流通することを常態とするものではないからです。

  (C) 当初の委任事項の範囲外の行為をした場合

相手方に対して他人に代理権を与える旨の表示があると認められる場合において、その他人が相手方との間で、表示された代理権の範囲外の契約をしたときは、相手方がその契約についてその他人に代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、本人はその契約についての責任を負います。例えば、不動産の売主Aから、白紙委任状・権利証等の登記に必要な書類の交付を受けた買主Bの代理人Cが、さらにBからDの所有不動産との交換契約を依頼されたにもかかわらず、Aの代理人としてDとの交換契約を締結した場合です。この場合では、DにおいてBに交換契約につき代理権があると信ずべき正当な理由があれば、Aはこの交換契約の責任を負うことになります(なお、平成29年民法改正前は、109条と110条が重畳適用されていました)。

  ㋑ 相手方の善意無過失

相手方が、他人に代理権が与えられていないことを知っていたとき、または過失によって知らなかったときは、本人は、その他人がした契約の責任を負いません。このような相手方を保護する必要がないからです。例えば、債務者Bが不動産の所有者Aの代理人と称して、その不動産について債権者Cと物上保証契約を締結した場合、代理人と称するBがその不動産の権利証・Aの白紙委任状・印鑑証明書等を所持していても、Cはその代理権の有無を調べる取引上の義務があるとされます。Cがこの義務を怠った場合には、Cに過失が認められることになります。

 (イ) 効果

本人は、表示された代理権の範囲内において他人が相手方との間でした契約について責任を負います。すなわち、他人Bが相手方Cとの間で締結した契約の効果が本人Aに帰属するということです。代理権があった場合と同じ効果が生じることになります。

  (ウ) 適用範囲

法定代理には、109条1項の適用はないとされています。109条1項は本人の代理権授与の表示が要件となるところ、法定代理は代理権の授与が法律によって定められているからです。もっとも、法定代理にもいろいろあるので、一般的に適用を否定するのではなく、異なる扱いをすべきであるとする見解があります。

 ③ 権限外の行為の表見代理

代理人がその権限外の行為をした場合において、相手方が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときには、本人はその代理人が相手方との間でした契約の責任を負います。これは、代理人がした行為について、代理権があると信じた相手方を保護するためです。

 (ア) 要件

  ㋐ 基本代理権の存在

代理人には何らかの代理権が与えられていることが必要です。この何らかの代理権のことを「基本代理権」と呼んでいます。本人が代理人に対して基本代理権を与えたことが、代理人が権限外の行為をする原因を与えているので、本人の責任が認められるのです。

一般人を勧誘して金銭の借入れをしていた会社の勧誘員が、事実上長男に勧誘させてきた場合の勧誘行為は、事実行為であって法律行為ではないから基本代理権ではないとする判例があります。これは、110条は代理人に契約の効果を本人に帰属させる権限があると信じた相手方を保護する趣旨であるので、基本代理権は法律効果を生じさせる意思表示である契約などの法律行為に関する権限に限られるべきだからです。

登記申請を委託されて必要な権限を与えられた者が、その権限を超えて相手方との間で契約をした場合に、その権限を110条の基本代理権とした判例があります。これは、登記申請行為は公法上の行為ではあるが、契約などの私法上の効果が生じるものだからです。

  ㋑ 正当な理由

契約の相手方が代理人に権限があると信じ、そのことについて正当な理由があることが必要です。このような相手方でなければ、保護をする必要がないからです。正当な理由とは、善意無過失と同じであるとされています。

 (イ) 効果

110条の要件を充たす場合には、代理人がした契約の効果は、本人に帰属することになります。

 (ウ) 適用範囲

110条は法定代理にも適用されるとするのが判例です。法定代理であっても相手方の信頼を保護して取引の安全を図る必要があるからです。しかし、法定代理にもさまざまなものがあるので、法定代理の内容に応じて110条の適否を判断すべきであるとする見解があります。

 ④ 代理権消滅後の表見代理

他人に代理権を与えた本人は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内でその他人が相手方との間でした契約について、代理権の消滅の事実を知らなかった相手方に対して責任を負います。これは、110条と同様に、代理人がした行為について、代理権があると信じた相手方を保護するためです。

(ア) 要件

 ㋐ 代理権を与えたが、その代理権が消滅したこと

代理権消滅後の表見代理は、代理人が有していた代理権について消滅した事実を知らずに、いまだその代理権を有していると信じた相手方を保護する制度です。そのため、本人が代理人に対して代理権を与えたことと、その代理権が消滅したことが必要です。

 ㋑ かつて存在した代理権の範囲内において代理行為をしたこと

代理権の範囲外の契約の相手方は、その代理権の存在を信頼したとはいえないからです。

ただし、消滅した代理権の範囲外の契約をした場合であっても、相手方がその契約について代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、本人はその契約について責任を負います。例えば、AがB銀行から借り入れをするために、Cを代理人としてCに実印を交付していたところ、AはB銀行から借り入れを受けることができたので、Cの代理権は消滅したのだが、CはAから預かっていた実印を使用して、D銀行から借り入れを受ける際に、Aを連帯保証人とする契約を締結した場合です。

 ㋒ 相手方の善意無過失

契約についての代理権の存在を信頼した相手方を保護するための制度だからです。

(イ) 効果

112条の要件を充たす場合には、代理人がした契約の効果は、本人に帰属することになります。

 (ウ) 適用範囲

112条は法定代理にも適用されるとされていますが、法定代理では代理権の消滅事由が法定されていることから、112条は法定代理には適用されないとする見解もあります。

 ⑤ 無権代理と表見代理との関係

判例は、無権代理行為の相手方は、表見代理の主張をしないで直ちに117条の無権代理人の責任を問うことができるものとしています。これは、表見代理と117条は独立した制度だからです。このため、相手方が無権代理を主張して無権代理人の責任を追及しているときに、無権代理人から表見代理が成立することを主張して責任を免れることはできないことになります。

(参照条文)民法99条、104条、105条、111条、824条、818条、819条、859条、839条~841条、859条、843条、876条の4、876条の9、28条、25条、26条、897条の2、943条、936条、952条、953条、643条、623条、632条、667条、100条、101条、102条、103条、107条、108条、106条、7条、651条、653条、113条、116条、177条、178条、467条、114条、115条、117条、555条、560条、561条、415条、896条、899条、900条、1条2項、264条、109条、110条、112条、商法504条、破産法30条、78条、民事執行法159条1項、160条

(参考判例)最判昭和42年4月20日民集21巻3号697頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)25事件)、最判昭和43年3月8日民集22巻3号540頁、最判昭和51年4月9日民集30巻3号208頁、大判昭和5年3月4日民集9号299頁、最判昭和37年8月10日民集16巻8号1700頁、最判昭和62年7月7日民集41巻5号1133頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)31事件)、最判平成5年1月21日民集47巻1号265頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)33事件)、最判平成10年7月17日民集52巻5号1296頁(民法判例百選Ⅰ(第5版補正版)37事件)、最判昭和40年6月18日民集19巻4号986頁、最判昭和37年4月20日民集16巻4号955頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)32事件)、最判昭和48年7月3日民集27巻7号751頁(家族法判例百選(第7版)62事件)、他人の物の売買の事案につき最大判昭和49年9月4日民集28巻6号1169頁参照、最判昭和35年10月21日民集14巻12号2661頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)27事件)、最判昭和42年11月10日民集21巻9号2417頁、最判昭和39年5月23日民集18巻4号621頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)26事件)、最判昭和45年7月28日民集24巻7号1203頁(民法判例百選Ⅰ(第8版)32事件)、最判昭和41年4月22日民集20巻4号752頁(民法判例百選Ⅰ(第5版補正版)24事件)、大判明治39年5月17日民録12輯758頁、最判昭和35年2月19日民集14巻2号250頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)28事件)、最判昭和46年6月3日民集25巻4号455頁(民法判例百選Ⅰ(第5版補正版)26事件)、大連判昭和17年5月20日民集21巻11号571頁、大連判昭和19年12月22日民集23巻19号626頁(民法判例百選Ⅰ(第8版)33事件)

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)133頁以下

四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)341頁以下

鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)218頁以下

我妻栄「新訂民法総則(民法講義Ⅰ)」(岩波書店、1965年)322頁以下

近藤光男「商法総則・商行為法(第9版)」(有斐閣、2023年)141頁

民法判例百選Ⅰ(第8版)36事件

(司法書士・行政書士 三田佳央)