当事者に関する有効要件2(行為能力2(成年後見制度))

(3) 制限行為能力者

 ② 成年後見制度

成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が不十分な本人が財産をみだりに失うことを防止することを通じて、本人の権利を擁護することを目的として制度です。

成年後見制度には、実際に判断能力が不十分な状況にある本人を保護するための法定後見と、本人が判断能力を有している間に、判断能力が不十分な状況になった場合に備えて、あらかじめ保護する者を指定してその職務内容を定めておく任意後見があります。また、法定後見は、本人の判断能力の程度に応じて、補助・保佐・後見の三つの類型に分かれています。

 (ア) 補助

  ㋐ 補助開始の審判の要件

補助の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が不十分である者です。例えば、軽度の認知症・知的障害・精神障害などの状態にある者のことです。このような本人は意思能力を有するので、この本人がした契約は完全に有効であるが、判断能力が不十分な者であることから、その契約が一定範囲のもので、この契約の結果、本人が財産上の重大な損失を被るおそれがある場合には、その契約から生ずる義務を免れる可能性が与えられることによって、本人の保護が図られているのです。

  ㋑ 補助開始の審判の手続

家庭裁判所は、精神上の障害により判断能力が不十分な者について、一定範囲の者の申立てがされた場合には、補助開始の審判をすることになります。

補助開始の申立てをすることができる一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族(例えば、子・兄弟姉妹・甥姪・従兄弟などです)・未成年後見人および未成年後見監督人(未成年後見を補助にする場合です)・成年後見人および成年後見監督人(後見を補助にする場合です)・検察官(公益の代表者としてです)です。このほかに、市町村長にも「その福祉を図るため特に必要であると認めるときは」補助開始の申立てが認められています。これは、成年後見制度による支援が必要な者が放置されることなく、成年後見制度による支援が受けられるようにする趣旨です。

本人以外の者による申立てにより補助開始の審判をするには、本人の同意がなければなりません。ある程度の判断能力を有する本人の自己決定を尊重するためです。

  ㋒ 補助開始の審判の効力

  (A) 補助人の選任

補助開始の審判がされると、補助人が選任されることになる。補助人の選任は、家庭裁判所の職権によりなされます。補助人を複数選任したり、法人を選任したりすることもできます。なお、補助人には欠格事由があり、これに該当する者を補助人に選任することができません(未成年者・破産者などが定められています)。

  (B) 同意権の付与

家庭裁判所は、補助開始の審判をするのと同時に、本人が特定の契約などの行為(例えば、金銭の貸付・不動産の売却などです)をするには補助人の同意を得ることを要する旨の審判をすることができます。これを「同意権付与の審判」といいます。これによって、補助人の同意を得ないで本人が行った行為は、一応は有効ではあるが、取り消される可能性のあるものとなります。すなわち、本人の行為能力が制限されることになります。ただ、同意権付与の対象となる特定の行為は、民法13条1項所定の行為(保佐人の同意を要する行為)の一部に限られます。これは、民法13条1項所定の行為すべてについて補助人の同意を要するのであれば保佐開始の審判をすべきだからです。

本人以外の者の申立てにより同意権付与の審判をするには、本人の同意を得る必要があります。ある程度の判断能力を有する本人の自己決定を尊重するためです。

同意権付与の審判がされた特定の行為について、補助人の同意を得ないで本人が行った場合には、本人・その承継人・補助人は、その行為を取り消すことができます。このほか、取消しに関する問題(取消権者・取消権の行使・取消権の効果・追認・本人の詐術)は、未成年者取消権の箇所で述べたことが当てはまります。

  (C) 代理権の付与

家庭裁判所は、補助開始の審判をするのと同時に、特定の契約などの行為(例えば、不動産の売却・預貯金に関する一切の取引などです)について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。これを「代理権付与の審判」といいます。これにより、本人が自ら行うには不安のある特定の行為について、本人に代わって補助人が行うことによって本人の保護を図ることが可能となります。

自己決定の尊重の観点から、本人以外の者の申立てにより代理権付与の審判をするには、本人の同意を得る必要があります。

  (Ⅾ) 補助開始の審判と同意権付与・代理権付与の審判との関係

補助開始の審判をするには、同意権付与の審判・代理権付与の審判のどちらか一方か、その両方と同時にしなければなりません。これは、同意権・代理権の両方とも持たない補助人を選任する意味がないからです。

このことから、補助人には、①同意権と代理権の両方を付与されるか、②同意権のみを付与されるか、③代理権のみを付与されるか、の三つの場合があることになります。①②の場合には、本人は補助人の同意を得ない限り単独で契約などの行為を行うことができないから、行為能力が制限されることになります。これに対し、③の場合には、本人は単独で契約などの行為のすべてについて行うことができるから、行為能力は制限されていないことになりますが、ただ、特定の行為については、補助人が審判により付与された代理権を行使して本人に代わってその行為を行うことができるということになります(なお、本人自身も同じ行為をすることができます。補助人に代理権が付与されたとしても、本人の行為が制限されるわけではないからです)。

  (E) 補助の登記

補助開始の審判がなされると、裁判所書記官の嘱託(公の機関が依頼することをいいます)により、法務局の後見登記等ファイルに補助の登記がなされます。これは、本人の行為能力の制限や補助人の権限を公示するためです。この後見登記等ファイルに登記されている事項を証明するには、登記事項証明書(後見登記等ファイルに登記されている事項を証明した書面のことです)を取得することによってすることになります。

  ㋓ 補助人の事務

  (A) 財産管理

補助人は、付与された同意権や代理権の範囲内において本人の財産を管理することになります。この財産管理を適切に行うようにするため、補助人に就任したら、本人の一年間の収支を予定することになります。また、本人のため必要があると認めるときには、本人が自ら行った契約について取消権を行使して本人の財産を保護したり、代理権を行使して本人の代わりに契約を締結して本人が財産的利益を得られるようにしたりして、判断能力が不十分な本人の権利を擁護することになります。

なお、補助人が本人に代わって居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。これは、居住用不動産の処分は、本人の生活や身上に大きな影響を与えるため、家庭裁判所の許可を得なければできないとされているのです。家庭裁判所の許可を得ずにした処分は無効とされます。

また、補助人と本人との利益が相反する契約などの行為については、補助人は、家庭裁判所に対して臨時補助人の選任の申立てをしなければなりません。これは、本人の利益を保護するためです。例えば、補助人が本人所有の不動産を購入する場合、補助人と本人が共同相続人として遺産分割協議をする場合などです。ただし、補助監督人が選任されている場合には、臨時補助人を選択する必要はありません。この場合には、補助監督人が本人を代理することになるからです。

  (B) 身上保護

補助人は、付与された代理権の範囲内において本人に代わって身上保護に関する事務を行います。身上保護とは、本人の生活や療養看護のことです。身上保護に関する事務としては、例えば、介護保険サービス(例えば、訪問介護(ホームヘルプ)、訪問看護、福祉用具レンタルなどです)契約の締結、施設(例えば、グループホーム、有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどです)入所契約の締結、病院の入院手続、家事代行サービス契約の締結などがあります。

  (C) 本人の意思尊重義務・身上配慮義務

補助人は、補助の事務を行うにあたっては、本人の意思尊重義務と身上配慮義務を負うことになります。身上配慮義務とは、本人の心身の状態・生活の状況に配慮することです。これは、補助人が同意権・取消権や代理権を行使する際の行動指針となるものです。

これにより、補助人は、その事務を行うにあたって、まず、本人の意思を確認し、それを尊重することが求められます(近年では、本人の意思決定支援の重要性が指摘されています)。自己決定の尊重の趣旨です。また、補助人は、本人に面談するなどして本人の身上面について確認することが求められます。

  (D) 事務を行うための費用

補助人がその事務を行うために必要な費用は、本人の財産の中から支出します。例えば、切手代・収入印紙代・各種手続の手数料・交通費などです。

家庭裁判所は、本人の資力その他の事情によって、本人の財産の中から、相当な報酬を補助人に与えることができます。補助人が報酬を受け取るためには、まず、家庭裁判所に対して報酬付与の申立てをし、その審判がなされたらその審判により決定された報酬を本人の財産の中から受け取ることになります。

  ㋔ 補助人の事務に関する監督

補助人の事務についての監督は、家庭裁判所が行います。この監督を実効的なものにするため、家庭裁判所は、いつでも補助人に対し補助の事務の報告や財産目録の提出などを求めることができるとされています。

また、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、本人・その親族・補助人の申立てにより、または職権で、補助監督人を選任することができます。補助監督人が選任された場合には、家庭裁判所は、直接補助人の事務を監督するだけでなく、補助監督人を通じて補助人の事務を監督することができるようになるのです。補助監督人による監督を実効的なものにするため、補助監督人は、いつでも補助人に対し補助の事務の報告や財産目録の提出などを求めることができるとされています。

  ㋕ 補助の終了

  (A) 終了事由

補助の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、一定範囲の者の申立てにより、補助開始の審判を取り消すことになります。補助の原因が消滅したときとは、本人の判断能力が補助制度による保護を必要としない状態に回復した場合をいいます。このような状態に回復した以上、補助開始の審判を取り消すのが相当であるとされたのです。

一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族・補助人・補助監督人(選任されている場合です)・未成年後見人および未成年後見監督人(本人が未成年者であって未成年後見が開始している場合です。判断能力が不十分な未成年者については、成年に達してから未成年後見人がはずれて法定後見が開始されるまでに本人の保護がなくなることを避けるために、未成年後見と法定後見が併存することが認められているのです)・検察官です。

また、同意権付与の審判と代理権付与の審判をすべて取り消す場合には、補助開始の審判を取り消すことになります。これは、補助人が同意権も代理権も有しないことは意味がなく認められていないからです。これにより、補助制度は、必要に応じて特定の事務(例えば、不動産の売却や遺産分割などです)のみについて補助人に代理権を付与し、その事務の終了後は速やかに開始の審判を取り消すという機動的な利用方法が可能となります。

また、本人の死亡により補助は終了します。これは、補助は本人の存在を前提とする制度だからです。

なお、本人の判断能力が「著しく不十分」な程度に低下したり、判断能力を「欠く常況」になったりした場合には、補助では対応できないので、保佐や後見による保護が必要となります。その場合には、申立権者により保佐・後見開始の審判がなされる際に、補助開始の審判が取り消され、補助は終了することになります。

(B) 終了後の事務

補助が終了したときは、補助人は2か月以内に補助の計算をしなければなりません。補助の計算とは、補助終了時における本人の財産を確定し、その結果を権利者に対して報告することです。管理財産の種類が多いなどで2か月以内に補助の計算を終了させることが困難な場合には、家庭裁判所に対して期間伸長の申立てをすることができます。補助監督人があるときは、補助の計算は補助監督人の立会の下でおこなわなければなりません。これは、補助の計算が適正に行われることを担保するためです。

その後、正当な権利者に対して管理財産を引き渡すことになります。補助が終了したことにより、補助人の財産保管権限が消滅するからです。正当な権利者とは、①補助の原因が消滅したことにより補助が終了した場合には、本人が該当し、②本人が死亡した場合には、本人の相続人が該当し、③保佐・後見の開始により補助が終了した場合には、保佐人・成年後見人が該当します。

なお、補助が終了した場合において、急迫の事情があるときは、補助人は、本人・その相続人が財産の管理をすることができるに至るまで、必要な処分をしなければなりません。これは、補助の終了によって本人やその相続人に対して不測の損失を与えないようにするためです。急迫の事情があるときとは、本人・その相続人のために事務処理をしなければ不測の損失が生じるおそれがある場合をいいます。例えば、本人の権利が時効により消滅してしまうことを回避するために手続が必要な場合、修繕をしなければ家屋が倒壊するおそれがある場合などです。

また、本人が死亡した場合には、補助人は、法務局に対し、補助終了の登記を申請することになります。これに対し、補助開始の審判が取り消された場合には、裁判所書記官により、補助終了の登記が嘱託されます。終了の登記がされると、補助の登記記録が閉鎖され、これが閉鎖登記記録となり、閉鎖登記ファイルに記録されることになります。

 (イ) 保佐

  ㋐ 保佐開始の審判の要件

保佐の対象となるのは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分である者です。日常生活に必要な買い物などの簡単な取引はできるが、民法13条1項に列挙されている重要な行為を単独で行うことができない者のことです。このような本人は意思能力を有するので、この本人がした契約は完全に有効であるが、判断能力が不十分な者であることから、その契約が一定範囲のもので、この契約の結果、本人が財産上の重大な損失を被るおそれがある場合には、その契約から生ずる義務を免れる可能性が与えられることによって、本人の保護が図られているのです。

補助の場合と同時に、本人は意思能力を有するが、判断能力が「著しく」不十分な状況にある点において、補助と区別されることになります。

  ㋑ 保佐開始の審判の手続

家庭裁判所は、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者について、一定範囲の者の申立てがされた場合には、保佐開始の審判をすることになります。

保佐開始の申立てをすることができる一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族・未成年後見人および未成年後見監督人・成年後見人および成年後見監督人(後見を保佐にする場合です)・検察官です。このほかに、市町村長にも保佐開始の申立てが認められているのは、補助の場合と同様です。

なお、本人以外の者による申立てにより保佐開始の審判をする場合であっても、補助の場合と異なり、本人の同意は不要です。保佐の対象となる者は、補助の対象となる者よりも判断能力が不十分な程度が大きく、本人を保護する必要性が大きいからです。

  ㋒ 保佐開始の審判の効力

  (A) 保佐人の選任

保佐開始の審判がされると、保佐人が選任されることになる。このほか、保佐人の選任については、補助の箇所で述べたことが当てはまります。

  (B) 保佐人の同意権・取消権

保佐人が選任されると、本人が民法13条1項に列挙されている特定の契約などの行為をするには保佐人の同意を得なければなりません。補助の場合と異なり、同意権付与の審判がされることなく当然に保佐人に対して同意権が付与されます。これは、保佐の対象となる者は、補助の対象となる者より判断能力が不十分な程度が大きいことから、本人の保護の必要性が大きいからです。これによって、保佐人の同意を得ないで本人が行った行為は、一応は有効ではあるが、取り消される可能性のあるものとなります。すなわち、本人の行為能力が制限されることになります。同意権付与の対象となる特定の行為は、民法13条1項所定の行為です。また、家庭裁判所の審判により、同意権の対象となる行為を拡張することもできます。ただし、自己決定の尊重の観点から、日常生活に関する行為については、本人は単独で行うことができます。

保佐人の同意権の対象である特定の行為について、保佐人の同意を得ないで本人が行った場合には、本人・その承継人・保佐人は、その行為を取り消すことができます。このほか、取消しに関する問題(取消権者・取消権の行使・取消権の効果・追認・本人の詐術)は、未成年者取消権の箇所で述べたことが当てはまります。

  (C) 代理権の付与

家庭裁判所は、保佐開始の審判をするのと同時に、特定の契約などの行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。これにより、本人が自ら行うには不安のある特定の行為について、本人に代わって保佐人が行うことによって本人の保護を図ることが可能となります。

自己決定の尊重の観点から、本人以外の者の申立てにより代理権付与の審判をするには、本人の同意を得る必要があります。

  (Ⅾ) 保佐開始の審判・同意権付与と代理権付与の審判との関係

保佐開始の審判がされると、本人が民法13条1項所定の行為をすることについて保佐人に同意権が付与されます。また、それと同時に代理権付与の審判をすることも可能です。

このことから、保佐人には、①同意権と代理権の両方を付与されるか、②同意権のみを付与されるか、の二つの場合があることになります。どちらの場合も、本人は保佐人の同意を得ない限り単独で契約などの行為を行うことができないから、行為能力が制限されることになります。

  (E) 保佐の登記

保佐開始の審判がなされると、裁判所書記官の嘱託により、法務局の後見登記等ファイルに保佐の登記がなされます。この後見登記等ファイルに登記されている事項を証明するには、登記事項証明書(後見登記等ファイルに登記されている事項を証明した書面のことです)を取得することによってすることになります。

  ㋓ 保佐人の事務

保佐人の事務については、補助人の箇所で述べたことが当てはまります。

  ㋔ 保佐人の事務に関する監督

保佐人の事務の監督については、補助人の箇所で述べたことが当てはまります。

なお、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、本人・その親族・補助人の申立てにより、または職権で、保佐監督人を選任することができます。

  ㋕ 保佐の終了

  (A) 終了事由

保佐の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、一定範囲の者の申立てにより、保佐開始の審判を取り消すことになります。

一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族・保佐人・保佐監督人・未成年後見人および未成年後見監督人・検察官です。

また、本人の死亡により保佐は終了するのは、補助の場合と同様です。

なお、本人が判断能力を「欠く常況」になった場合には、保佐では対応できないので、後見による保護が必要となります。その場合には、申立権者により後見開始の審判がなされる際に、保佐開始の審判が取り消され、保佐は終了することになります。また、本人の判断能力が「不十分」な程度まで回復し、補助に移行する場合には、申立権者により補助開始の審判がなされる際に、保佐開始の審判が取り消され、保佐は終了することになります。

(B) 終了後の事務

保佐が終了したときの保佐人の事務については、補助の箇所で述べたことが当てはまります。

 (ウ) 後見

  ㋐ 後見開始の審判の要件

後見の対象となるのは、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者です。日常生活に必要な買い物など簡単な取引も単独で行うことができない者のことです。「常況」とは、通常は判断能力を欠く状況にあるという趣旨であり、判断能力を欠く以上、通常は意思能力を欠く状態にあるということになります。このように、本人は意思能力を有しないので、この本人が行った契約は無効である。しかし、そのことを主張するには契約締結時点で本人の意思能力がなかったことを証明しなければならないが、その証明は必ずしも容易ではありません。これでは、本人の意思能力の有無について争いが生じ、本人の保護にも取引の安全にも支障をきたすおそれがあります。そこで、判断能力を欠く常況にある者について、家庭裁判所が後見開始の審判をすると、この審判を受けた者が行った契約は、具体的な時点での意思能力の有無にかかわらず、原則として取り消すことができるものとして本人の保護が図られています。

  ㋑ 後見開始の審判の手続

家庭裁判所は、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者について、一定範囲の者の申立てがされた場合には、後見開始の審判をすることになります。

後見開始の申立てをすることができる一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族・未成年後見人および未成年後見監督人(未成年後見を後見にする場合です)・補助人および補助監督人(補助を後見にする場合です)・保佐人および保佐監督人(保佐を後見にする場合です)・検察官です。このほかに、市町村長にも後見開始の申立てが認められていることは、補助の場合と同様です。

なお、本人以外の者による申立てにより後見開始の審判をする場合であっても、本人の同意は不要なのは、保佐の場合と同様です。

  ㋒ 後見開始の審判の効力

  (A) 成年後見人の選任

後見開始の審判がされると、成年後見人が選任されることになる。補助人の選任は、家庭裁判所の職権によりなされます。このほか、成年後見人の選任については、補助の箇所で述べたことが当てはまります。

  (B) 成年後見人の取消権

成年後見人が選任されると、本人が行った契約などの行為は、原則として取り消すことができます。補助・保佐の場合と異なり、本人が自ら契約などの行為を行うことについて、成年後見人が同意をしていたとしても、その行為を取り消すことができるものとされています。これは、仮に成年後見人がその行為を行うことについて同意したとしても、本人が一時的に意思能力を回復してもその状態の持続は期待できないため、本人がその同意に従って適切に行為を行うことができるとは限らないからです。このように、後見開始の審判を受けた本人は、行為能力が制限されることになります。ただし、自己決定の尊重の観点から、日常生活に関する行為については、本人は単独で行うことができます。

以上のように、原則として、本人・その承継人・成年後見人は、本人が自ら行った行為を取り消すことができます。このほか、取消しに関する問題(取消権者・取消権の行使・取消権の効果・追認・本人の詐術)は、未成年者取消権の箇所で述べたことが当てはまります。もっとも、未成年者・補助・保佐の場合と異なり、成年後見人の同意を得たとしても、本人がその行為の追認をすることはできません。この場合における本人は、成年後見人の同意を得ても自ら単独で行為を行うことができないからです。

  (C) 成年後見人の代理権

成年後見人には、財産管理に関する包括的な代理権が付与されます。これにより、本人に代わって成年後見人が契約などの行為を行うことによって本人の保護を図ることが可能となります。また、身上保護に関する事務についても、費用など財産管理に関するものである限り、成年後見人の代理権の範囲に含まれるとされています。

  (Ⅾ) 後見開始の審判と成年後見人の取消権・代理権との関係

家庭裁判所が後見開始の審判をすると、成年後見人には取消権と代理権が必ず付与されます。取消権と代理権の範囲は法定されています。

  (E) 後見の登記

後見開始の審判がなされると、裁判所書記官の嘱託により、法務局の後見登記等ファイルに後見の登記がなされます。この後見登記等ファイルに登記されている事項を証明するには、登記事項証明書(後見登記等ファイルに登記されている事項を証明した書面のことです)を取得することによってすることになります。

  ㋓ 成年後見人の事務

成年後見人の事務については、補助人の箇所で述べたことが当てはまります。成年後見人は包括的な代理権を有することから、補助や保佐の場合と異なり、財産管理や身上保護は限定的なものではありません。

  ㋔ 成年後見人の事務に関する監督

成年後見人の事務の監督については、補助人の箇所で述べたことが当てはまります。

なお、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、本人・その親族・補助人の申立てにより、または職権で、成年後見監督人を選任することができます。

  ㋕ 後見の終了

  (A) 終了事由

後見の原因が消滅したときは、家庭裁判所は、一定範囲の者の申立てにより、後見開始の審判を取り消すことになります。

一定範囲の者とは、本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人・成年後見監督人・未成年後見人および未成年後見監督人・検察官です。

また、本人の死亡により後見は終了するのは、補助の場合と同様です。

なお、本人の判断能力が「不十分」または「著しく不十分」な程度まで回復し、補助または保佐に移行する場合には、申立権者により補助または保佐開始の審判がなされる際に、後見開始の審判が取り消され、後見は終了することになります。

(B) 終了後の事務

後見が終了したときの成年後見人の事務については、補助の箇所で述べたことが当てはまります。なお、成年後見人には、一定の範囲内で債務の弁済などの死後事務を行う権限が認められています。これは、本人の死亡後の死後事務は、本来は相続人が行うべきものであるが、実際には成年後見人がこの死後事務をも行なわざるを得ない事態が生じていることから、成年後見人に一定範囲の死後事務を行う権限を有することを明確にしたものです。

 (エ) 相手方の催告

契約の相手方は、未成年者の場合と同様に、本人または補助人・保佐人・成年後見人に対し、1か月以上の期間を定めて、その契約を追認するかどうかを確答すべき催告をすることができます。なお、この場合における補助人は、同意権が付与された補助人に限ります。補助人に同意権が付与されていない場合には、本人が行った契約が補助人の同意のないことを理由として取り消されることはないからです。

この催告が、判断能力を回復して法定後見開始の審判が取り消された後の本人に対してされた場合において、その期間内に確答がなかったときは、その契約を追認したものとみなされます。また、この催告が、補助人・保佐人・成年後見人に対してされた場合においても、その期間内に確答がなかったときは、追認したものとみなされます。これらの場合においては、催告を受けた者は取消し・追認をすることについて正常に判断することができるのであるところ、期間内に確答しないということは契約の効力を現状のまま確定させる意思があると考えられるからです。

補助または保佐開始の審判を受けた本人に対しては、期間内に補助人または保佐人の追認を得るべき旨の催告をすることができます。その期間内に本人が追認を得た旨の通知をしなかったときは、その契約を取り消したものとみなされます。この場合には、その通知をしなかったのは追認を得られなかったと考えられるからです。

なお、この催告が、後見開始の審判を受けた本人に対してされた場合には、未成年者と同様に意思表示の受領能力がないので、相手方は本人に対して催告をしたことを主張することができません。

(参照条文)民法15条1項2項3項、16条、17条1項2項4項、876条の10、843条1項4項、876条の7、847条、120条1項、876条の9、876条の5第1項2項3項、861条、859条の3、862条、863条1項、876条の8、18条1項3項、19条、870条、871条、11条、12条、13条1項2項4項、7条、8条、9条、859条、849条、10条、20条1項2項4項、精神保健福祉法51条の11の2、876条の2、876条の4第1項2項、876条の3、14条1項、知的障害者福祉法28条、老人福祉法32条、家事事件手続法136条2項・別表第一50、116条1号、家事事件手続規則77条、後見登記4条1項、10条1項、8条1項、9条

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)109頁以下、121頁以下

四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)60頁以下

鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)16頁以下

小林昭彦・大門匡・岩井伸晃編「新成年後見制度の解説(改訂版)」(きんざい、2017)72頁以下

新井誠・赤沼康弘・大貫正男編「成年後見制度―法の理論と実務(第2版)」(有斐閣、2014年)150頁以下

河上正二「民法総則講義」(日本評論社、2007年)63頁以下、426頁

三田佳央「成年後見法の道標1 法定後見」(共同文化社、2024年)23頁以下、146頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)