未成年者による法定代理人の同意を得ずにした契約

(1) 法定代理人の同意の意義

18歳未満の者のことを未成年者といいます。未成年者が契約をするには、法定代理人の同意を得なければなりません。これは、判断能力が不十分な未成年者を保護するためです。ただし、単に権利を得る契約(贈与)の締結など一定の場合には、法定代理人の同意は不要とされます。

判断能力とは、契約を締結することが自分にとって利益か不利益かを判断する能力のことです。未成年者は社会的な経験が十分ではないために、適切な判断ができないリスクがあることから、未成年者が契約を締結するには法定代理人の同意を要することとし、未成年者を財産的な損失から保護しようとしているのです。

法定代理人とは、通常は親権者のことですが、親権者がいないときには、未成年後見人が指定・選任され、その者が法定代理人となります。親権者には父母がなり、原則として、共同して親権を行使します。

(2) 法定代理人の同意を得ずにした契約の効力

もっとも、未成年者が法定代理人の同意を得ずに契約の締結をしても、無効ではなく取り消すことができる行為として扱われます。取り消すことができる行為は、取り消されるまでは有効ですが、取り消されると初めから無効であったものとみなされます。すなわち、未成年者が法定代理人の同意を得ずに契約を締結したとしても、それが取り消されるまでは有効で、取り消させた場合に初めから無効であったものとして扱われます。このことから、未成年者であっても、法定代理人の同意を得ずに契約を締結することができることになります。

(3) 意思表示の受領能力との関係

このことと関連して問題となるのが、意思表示の受領能力との関係です。意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者であったときは、相手方にその意思表示の効力を主張することができません。これは、意思表示の内容を理解できる能力(これを意思表示の受領能力といいます)がない者に対して、その意思表示の効力を認めることは相当でないからです。そして、契約は、申込みと承諾という意思表示が合致したときに成立します。そうすると、未成年者は法定代理人の同意を得ずに契約を締結することができることと、未成年者の意思表示の受領能力との関係か問題となります。なぜなら、未成年者AがBに対し、親権者の同意を得ずにBの所有する甲パソコンを10万円で購入したい旨の申込みをし、これに対しBが承諾をした場合において、BがAに対して承諾の意思表示の効力を主張することができないとなると、この契約は不成立となってしまい、未成年者は法定代理人の同意を得ずに契約を締結することができなくなるからです。

意思表示の受領能力については、法定代理人の同意が不要な場合や同意を得ている場合は、未成年者に対して意思表示の効力を主張することができるとされています。

しかし、法定代理人の同意を得ずに契約を締結した場合は、これには該当しません。もっとも、未成年者の方から意思表示の効力を認めることはできます。未成年者に対する意思表示は、あくまで、意思表示を受領した未成年者に対して、その効力を主張することができないに過ぎないからです。そのため、未成年者AがBからの承諾の効力を認めることにより、甲パソコンの売買契約を成立させることはできます。

これに対し、未成年者AがBからの承諾の効力を認めなかった場合の扱いが問題となりますが、そもそもAがBからの承諾の効力を認めないことが許されるのでしょうか。

この点については、Aが自ら申込みをしており、契約の成立を望んでいることが明白であり、また、承諾は申込みに対して契約を成立させる意思表示であることから、Aの申込みに対する承諾の効力を認めても、Aの意思に沿うことになるし、その契約が成立することによってAが不利益を被るのであれば契約を取り消せばよいので、BのAに対する承諾の効力を認めても差し支えないでしょう。

また、未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結した契約は取り消すことができるとされていることは、その契約は取り消されるまでは有効に成立していることになるのだから、未成年者がした申込みに対してした承諾の効力を認めることが前提となっているといえるでしょう。

したがって、申込みをした未成年者Aは、Bから承諾の通知を受けたときに、未成年者であることを理由に承諾の効力を否定することはできないと考えるべきです。

(4) 取消権者・取消しの方法

未成年者が法定代理人の同意を得ずに契約を締結した場合は、その契約を取り消すことができます。この取消しをすることができるのは、未成年者本人とその法定代理人です。未成年者は未成年者である間でも取り消すことができます。また、法定代理人の同意を得ることなく取り消すことができます。

取消しは、相手方に対して意思表示をすることによって行います。相手方の承諾は不要です。

(5) 取消しの効力

 ① 返還義務の発生

未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結した契約に基づいて債務の履行として給付をした者は、その契約が取り消されると、その給付を返還する義務を負います。契約が取り消されると、その契約は初めから効力がなかったものとして扱われるからです。例えば、未成年者AがBに対し、親権者の同意を得ずにBの所有する甲パソコンを10万円で購入したい旨の申込みをし、これに対しBが承諾をした後に、AがBに10万円を支払い、BはAに甲パソコンを引渡したが、Aが未成年者であることを理由にこの契約を取り消した場合には、AはBに対し甲パソコンを返還し、BはAに対し10万円を返還しなければなりません。

 ② 返還義務の範囲

もっとも、未成年者であることを理由に契約の取消しをする場合、その契約によって現に利益を受けている限度(これを「現存利益」といいます)において、返還義務を負うとされています。これは、未成年者の保護のためです。例えば、未成年者AはBから10万円で購入した甲パソコンが盗まれたとしても、甲パソコンをBに返還することなく、Bから代金10万円の返還を受けることができます。もし、Aが甲パソコンまたはその価額をBに返還しなければ、代金の返還を受けられないとすると、未成年者の保護のために取消権を認めた意味が半減してしまいます。

 ③ 継続的契約の場合の扱い

なお、継続的な契約(賃貸借・雇用・委任・組合など)においては、その契約の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずるものと考えられています。この場合にも取消しによってその契約が初めから効力が生じなかったものとして、取り消されるまでにされた全部の給付について原状回復されなければならないとすると、両当事者が相互に相手方に返還すべきものは多種多様となり、その処理が困難となるからです。そのため、継続的な契約については、取消しがされる時点までに、その契約に基づいて給付を受領していたときは、その給付をそのまま保有することができ、給付を受領していないときは、その給付を履行するように請求することができます。そして、その継続的な契約に期間が設けられており、その期間を経過して終了した場合には、もはやその契約を取り消すことができなくなると考えるべきでしょう。この場合に取消しをしても無意味だからです。

(6) 追認

法定代理人は、未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結した契約を追認することができます。追認がされると、その契約は、以後、取り消すことができなくなります。それまで取り消される可能性のあった契約が、確定的に有効となるのです。

また、未成年者が成人になった時(18歳に達した時)から、同様に追認をすることができます。

追認は、相手方に対し、追認をする旨の意思表示をすることによって行います。

なお、目的物の受領・代金の支払いなど一定の行為をすることによって、追認したものとみなされることがあります。これを法定追認といいます。未成年者の行為が法定追認として認められるには、その行為をした時に成人となっていなければなりません。

(参照条文)民法4条、5条、6条、818条1項3項、838条1号、839条、840条、121条、98条の2本文、522条1項、120条1項、121条の2第1項3項、122条、123条、124条、125条

(参考文献)四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)47頁

小林昭彦・大門匡・岩井伸晃編「新成年後見制度の解説(改訂版)」(きんざい、2017)50頁

我妻栄「新訂民法総則(民法講義Ⅰ)」(岩波書店、1965年)322頁

鈴木禄弥「債権法講義(四訂版)」(創文社、2001年)541頁以下、24頁

潮見佳男「民法総則講義」(有斐閣、2005年)116頁以下

内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)121頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)