(1) 成立要件・有効要件
① 成立要件
契約は、当事者の申込みと承諾という意思表示が合致することによって成立します。この意思表示の合致すなわち合意が契約の成立要件です。契約の成立要件として合意のほかに書面の作成その他の方式を具備することは不要なのが原則ですが、合意のほかに特別の方式を具備することが要件として加わる場合もあります。例えば、保証契約は書面でしなければ成立しません(これを要式契約といいます)。また、消費貸借は目的物の受渡しをしなければ成立しないのが原則です(これを「要物契約」といいます)。
② 有効要件
(ア) 効力発生の前提問題
契約が効力を生ずるためには、その契約が有効に成立していることが必要です。当事者間の合意によって契約が成立したとしても、契約が無効・取消しとなって初めから効力が否定される場合があります。これには、当事者に関する有効要件(意思能力が欠けている場合、行為能力が制限されている場合、意思表示そのものに問題がある場合)と内容に関する有効要件(確定性・実現可能性・適法性・社会的妥当性)とがあります。
(イ) 当事者に関する有効要件
意思能力が欠けている場合には、契約は無効となるので、契約は有効に成立しません。
行為能力が制限されている場合(未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人)には、契約は有効に成立するものの取り消すことができ、取り消されると、契約の時に遡って効力を失います。
意思表示そのものに問題がある場合(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)には、契約の要素である申込みや承諾の意思表示が無効となったり(心裡留保・虚偽表示の場合)、取り消されたりすると(錯誤・詐欺・強迫)、その意思表示は初めから効力が否定されるので、契約の効力も否定されることになります。
(ウ) 内容に関する有効要件
当事者に関する有効要件が充たされたとしても、その次に、内容に関する有効要件が問題となります。この要件は、社会においてどのような契約がその内容的に有効な契約として認められるか否かに関する判断を示すもので、当事者の保護のための有効要件とは性質を異にしています。この要件を欠く契約は、法的・社会的に許容されないという評価がなされた契約であるから、効力は否定されます。
(2) 効果帰属要件・効力発生要件・消滅時効
① 効果帰属要件
本人が代理人を使って契約する場合は、代理人に代理権があってその行為が代理権の範囲内であることが必要です。代理権のない行為の効果は本人に帰属しません。この効果は単なる無効とは異なることから、有効要件と区別して効果帰属要件と呼ばれています。
② 効力発生要件
契約は有効に成立したが、効力は直ちに発生しないという場合もあります(条件・期限)。これを効力発生要件といいます。
③ 消滅時効
また、せっかく契約が有効に成立しても、放っておくと権利が消滅することもあります。これは消滅時効の問題です。
(参照条文)民法522条1項2項、446条2項、587条、99条、3条の2、5条2項、9条本文、13条1項4項、17条1項4項、120条1項2項、121条、93条-96条、127条1項、135条1項、166条1項2項-169条
(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)265頁以下
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)295頁以下
鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)133頁以下
潮見佳男「民法総則講義」(有斐閣、2005年)145頁以下
(司法書士・行政書士 三田佳央)