(1) 制限行為能力者制度の種類
制限行為能力者には、成年後見制度における本人(被補助人・被保佐人・成年被後見人)と未成年者が定められており、さらに成年後見制度として、補助・保佐・後見の三類型が定められています(成年後見制度における本人のことを、それぞれの類型に応じて被補助人・被保佐人・成年被後見人といいます)。
(2) 制限行為能力者制度の概要
① 制限行為能力者としての成年後見制度
制限行為能力者制度とは、判断能力が不十分な本人を保護するための制度です。成年後見制度においては、どのようにして判断能力が不十分な本人を保護しているのでしょうか。
(ア) 補助
補助は、精神上の障害により判断能力が不十分な本人を保護するための制度です。判断能力が不十分な本人とは、重要な法律行為を本人が自ら行うことはできますが、その一部について自ら法律行為を行うことに不安があり、第三者の支援を受けた方が適当であると考えられる者のことです。
家庭裁判所によって補助開始の審判がされると、本人には補助人が付されます。補助人には、家庭裁判所の審判によって、特定の法律行為について同意権を付与することができます。特定の法律行為は民法13条1項所定の行為に限られます。補助人の同意を得ずに行った法律行為は有効ですが、補助人によって取り消すことができます。
なお、家庭裁判所の審判によって、補助人に特定の法律行為について代理権を付与することができますが、代理権が付与された場合には、同意権を付与しないとすることができます。この場合の補助人は、代理権が付与されるのみで本人は単独で法律行為をすることができるので、この場合の本人は制限ではないことになります。
(イ) 保佐
保佐は、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な本人を保護するための制度です。判断能力が著しく不十分な本人とは、日常生活に関する簡単な取引はできますが、重要な法律行為を単独で行うことができない者のことです。
家庭裁判所によって保佐開始の審判がされると、本人には保佐人が付されます。保佐人には、法律上当然に特定の法律行為について同意権が付与されます。特定の法律行為は民法13条1項に列挙されています。保佐人の同意を得ずに行った法律行為は有効ですが、保佐人によって取り消すことができます。
なお、家庭裁判所の審判によって、保佐人に特定の法律行為について代理権を付与することができます
(ウ) 後見
後見は、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある本人を保護するための制度です。判断能力を欠く常況にある本人とは、日常生活に関する簡単な取引をするに足る意思能力もない者のことです。
家庭裁判所によって後見開始の審判がされると、本人には成年後見人が付されます。成年後見人には、法律上当然に日常生活に関する取引を除いたすべての法律行為についての取消権が付与されます。本人が自ら行った法律行為は、成年後見人によって取り消すことができます。これは、本人が事前に成年後見人の同意を得ていた場合であっても同じです。本人がその事前の同意に従って当該行為を適切に行うことが期待しがたいからです。
なお、成年後見人には、法律上当然に本人の財産に関する包括的な代理権が付与されます。本人は、日常生活に関する行為以外の法律行為については、単独で行うことができないので、成年後見人が本人に代わって法律行為を行うことになります。もっとも、本人が自ら法律行為を行ったとしても、成年後見人がその行為について追認した場合には、その行為は確定的に有効なものとして成立します。
② 制限行為能力者としての未成年者
18歳未満の者は未成年者とされます。未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければなりません。法定代理人とは、通常は親権者のことであり、親権者がいないときは未成年後見人のことです。未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った法律行為は有効ですが、法定代理人によって取り消すことができます。
ただし、単に権利を得る法律行為や義務を免れる法律行為については、法定代理人の同意は不要です。また、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産を、その目的の範囲内において処分する場合、法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産を処分する場合、許された営業に関する法律行為を行う場合には、取り消すことができません。
(3) 制限行為能力者制度の意義
① 成年後見制度の意義
(ア) 本人の保護と取引の安全
補助と保佐については、本人は意思能力を有するものの判断能力が不十分な状況にあるので、補助人・保佐人に同意権が付与された法律行為について、本人が自ら行った結果、本人が財産上の損失を被るおそれがある場合には、補助人・保佐人がその法律行為を取り消して、その法律行為から生ずる義務を免れるようにすることによって、本人の保護を図っているのです。
後見については、本人は意思能力を欠いているので、本人が行った法律行為は無効とされます。しかし、意思能力を欠いていることの証明は困難なことが多く、その証明ができなければ、その法律行為は有効とされ、意思能力を欠いている本人が保護されないことになってしまいます。そこで、意思能力を欠いている者を定型化し、後見開始の審判を受けた者については、本人が自ら行った結果、本人が財産上の損失を被るおそれがある場合には、成年後見人がその法律行為を取り消して、その法律行為から生ずる義務を免れるようにすることによって、本人の保護を図っているのです。また、意思能力の有無については争いが生じやすいので、意思能力の欠いている者が行った法律行為の効力を否定すると、取引の相手方に損害を与えることになりかねません。そこで、意思能力を欠いている者を定型化し、取引の相手方からわかりやすくすることによって取引の安全を図っているのです。
このように、補助と保佐は、本人は意思能力を有するものの判断能力が不十分な者を保護する制度であるのに対し、後見は、意思能力を欠いている者を保護するとともに取引の安全を図る制度であるといえます。
(イ) 自己決定の尊重・残存能力の活用・ノーマライゼーション
また、成年後見制度は、自己決定の尊重・残存能力の活用・ノーマライゼーションを理念と本人保護の理念との調和を図ることを目的としています。自己決定の尊重は、憲法の基本原理である個人の尊重に基づく理念です。人間は生まれながらにして生来の権利(自然権)を持っており、憲法はこの自然権を実定化した人権規定を設けていますが、それを支える核心的価値が人間の人格不可侵の原則すなわち個人の尊重の原理です。そして、自己決定の尊重は、個人の尊厳を保ち幸福の追求を保障するうえにおいて必要不可欠なものであるとされます。残存能力の活用は、本人ができることはなるべく本人ができるようにしようという考え方です。ノーマライゼーションとは、障害がある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作るという理念のことです。
成年後見制度開始の審判の申立権が本人自身に認められていること、補助における代理権・同意権付与の審判の申立権が本人自身に認められていること、保佐における代理権付与の審判の申立権が本人自身に認められていること、補助人・保佐人・成年後見人(以下「後見人等」といいます)を選任するには本人の意見を考慮しなければならないこと、後見人等がその事務を行うにあたっては本人の意思を尊重しなければならないこと、日常生活に関する行為については後見人等の取消権の対象から一律に除外されていることは、自己決定の尊重の理念の現れです。
日常生活に関する行為については本人自ら行うことができます。補助と保佐においては、それ以外の行為についても補助人・保佐人の同意を得れば本人自ら行うことができます。このことは、補助人・保佐人に代理権が付与されている行為についても同様です。補助と保佐においては、補助人・保佐人への代理権の付与や補助人への同意権の付与は本人の保護に必要な範囲でなされます。これらは、残存能力の活用の現れです。
上述のように本人の自己決定が尊重されることによって、自らがどのような生活を送るのかを選択することができ、自ら行うことができない行為について後見人等が本人に代わって行うことによって、本人が自ら選択した生活を送ることが可能となります。これは、ノーマライゼーションの現れです。
このことから、残存能力の活用やノーマライゼーションは、自己決定の尊重の理念に基づくものであるということができます。
② 制限行為能力者としての未成年者の意義
未成年者の中でも年齢はさまざまあるので、どのような取引であっても意思能力を欠いている者、取引の種類や内容によっては意思能力を有する者、どのような取引であっても意思能力を有する者などが存在します。しかし、意思能力を有するとしても、未成年者は社会的な経験が十分ではないために、適切な判断ができないことから、自ら取引をすることによって不利益を被るおそれがあります。そこで、社会的経験が未熟な者を一定年齢で定型化し、本人が自ら行った結果、本人が財産上の損失を被るおそれがある場合には、法定代理人がその法律行為を取り消して、その法律行為から生ずる義務を免れるようにすることによって、本人の保護を図っているのです。また、意思能力の有無との関係については、後見の場合と同様に、取引の安全を図る制度であると考えることができるでしょう。このことから、制限行為能力者としての未成年者は、保佐と後見の中間的な制度であるといえるでしょう。
(参照条文)民法13条1項10号、15条1項、11条、7条、16条、17条1項4項、12条、13条1項4項、120条1項、876条の9第1項、12条、13条1項4項、876条の4第1項、8条、9条、859条1項、5条、6条1項、818条1項2項、838条1項、3条の2
(参考文献)鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)16頁以下
新井誠・赤沼康弘・大貫正男編「成年後見制度―法の理論と実務(第2版)」(有斐閣、2014年)33頁、29頁、24頁
河上正二「民法総則講義」(日本評論社、2007年)83頁、51頁以下
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)46頁以下
「新版注釈民法(1)総則(1)(改訂版)」(有斐閣、2002年)300頁
(司法書士・行政書士 三田佳央)