福祉型の家族信託のスキーム4

福祉型の家族信託には、①高齢者などに代わっての管理処分機能、②親亡き後・伴侶(配偶者)亡き後の財産承継と管理処分機能、③民法などでは対処できないケースについてニーズがあるとされています。

民法などでは対応できないケースとしては、まず、相続対策が挙げられます。例えば、夫A、妻B、長男C、二男D、長女Eがいるとして、Aが、自分が亡くなったら遺産をBに相続させ、Bが亡くなったらCに相続させたいと希望していたとします。この希望を遺言によって叶えることはできません。Aがすべての遺産をBに相続させる旨の遺言を残して亡くなった場合、BがAの遺産を相続した時点でその遺産の権利はBが承継することになるので、その遺産についてAの意思でCに承継させることはできないからです。したがって、たとえAがすべての遺産をBに相続させ、Bが亡くなったらCに相続させる旨の遺言を残したとしても、Cに相続させる旨の部分については効力を生じません。

しかし、信託を活用すれば、このような希望を叶えることが可能となります。その方法としては、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」が有用なスキームとなるでしょう。

「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」とは、受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めのある信託のことです。例えば、当初受益者であるAが亡くなったらBが受益権を取得し、Bが亡くなったらCが受益権を取得するという場合などです。このような定めがあることにより、自分が亡くなったときの遺産を、A→B→Cと承継させることが可能となります。

もっとも、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を無期限に存続させることは認められていません。このような定めのある信託は、信託設定後30年を経た時点の受益者が死亡し、その時以後に現に存在している次の受益者として指定されているものが死亡するまでの間は存続すると定められているからです。例えば、上述の例によれば、信託設定後30年が経過してからAが死亡した場合には、Bが死亡した時点で信託は終了します。これに対し、信託設定後30年が経過する前にAが亡くなりBが受益権を取得して30年が経過した場合には、Bが死亡してCが受益権を取得し、その後Cが死亡した時点で信託は終了することになります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)