家族信託において受託者を選任する際の留意点

受託者は、家族信託において、信託事務を遂行する者であって中心的な役割を担うものです。その受託者が死亡したとき、後見開始・保佐開始の審判を受けたとき、破産手続開始の決定を受けたときなどには、受託者の任務は終了してしまいます。さらに、受託者が欠けた場合に、新たに後継の受託者が就任しない状態が1年間継続したときは信託そのものが終了してしまうのです。

受託者が欠けた場合において、委託者と受益者の合意によって後継受託者を選任することができます。しかし、家族信託においては、受益者が認知症や知的障害などにより合意の意思表示をすることが難しいことが想定されます。このような場合には、利害関係人の申立てにより、裁判所が後継受託者を選任することができます。しかし、家族信託では、その関係人は法律の専門的知識を持たないので、裁判所への申立てをすることが期待できない場合が多いようです。そうずると、結局、後継受託者が選任されないまま1年が経過して信託が終了してしまうおそれがあります。信託は、長期にわたる事務処理が行われることが少なくないので、受託者が欠けることを想定しておく必要があります。

そこで、信託契約において、後継受託者を定めて、当初受託者に不測の事態が生じたとしても、直ちに後継受託者が就任して信託事務を継続できるように準備しておく必要があります。

また、受託者に複数の者を選任することはできますが、やめたほうがよいでしょう。受託者が複数の場合には、その権限を分掌することや受託者間において連携して信託事務を遂行することは、実務上難しいからです。受託者間で信託事務の遂行の方針が定まらないような状況に陥ってしまうと、信託事務の遂行に支障をきたすことになってしまいます。円滑な信託事務の遂行をするには、受託者を単独にしていくべきなのです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)