遺言の執行

遺言の執行とは、遺言者の死後に遺言の内容を実現する手続のことです。例えば、相続財産の中の不動産の名義を受遺者に移転する登記申請をすること、預金を受遺者名義の金融機関の口座に振り込むこと、戸籍係に認知の届出をすること、家庭裁判所に相続人廃除の申立てをすること、などです。ただし、遺言の執行を要しないものもあります。例えば、未成年後見人の指定や、相続分の指定などです。

遺言の執行をするには、遺言の保管者または遺言書を発見した相続人は、遅滞なく、相続開始地を管轄する家庭裁判所に対し、遺言書の検認の申立てをしなければなりません。遺言書の検認手続は、遺言書の現状を確認し、証拠を保全するものです。そのため、偽造・変造のおそれのない公正証書遺言や遺言書保管所(法務局)に保管されている自筆証書遺言については、検認は不要です。

遺言書の検認手続では、遺言の保管者または遺言書を発見した相続人が、期日に遺言書の原本を家庭裁判所に持参して、検認に立会います。検認が終わると、家庭裁判所から、「遺言書検認証明書」が合綴(がってつ)された遺言書の原本が返却されます。遺言書検認証明書の発行には、150円の印紙代が必要です。検認の立会いの所要時間は約15分です。なお、検認手続は、その期日に遺言書の原本を持参しなければならないため、管轄の家庭裁判所が遠方であっても、実際に家庭裁判所に出向かなければなりません。

封のされている遺言書は、相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができません。検認をしていない遺言書を執行したり、家庭裁判所以外の場所で開封したりした場合には、5万円以下の過料に処せられます。また、実務においては、遺言書検認証明書が合綴された遺言書でなければ、遺言執行の手続ができない扱いがなされています。

遺言によって遺言執行者が指定されていれば、その遺言執行者が遺言執行の手続をします。遺言執行者の指定がなければ、受遺者が遺言執行の手続をすることになりますが、遺贈の場合には、受遺者と相続人全員で遺言執行の手続をすることになります。そのため、相続人に非協力的な者がいたり、連絡が取れない者がいたりすると、その遺言執行の手続ができなくなってしまいます。ただし、遺言執行者の指定がない場合でも、利害関係人は、家庭裁判所に対して、遺言執行者選任の申立てをすることができます。なお、未成年者と破産者は遺言執行者にはなれません。実務では、受遺者を遺言執行者に指定することが少なくありませんが、弁護士や司法書士などの法律専門家を指定することもあります。スムーズな遺言執行のためには、遺言で遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)