被相続人Xが生前に「財産のすべてを恩人であるAに遺贈する。」との遺言を作成していた場合、被相続人が死亡したことにより、その遺言が効力を生じます。この場合、Xの相続人は、その遺産を相続することができません。しかし、一定の範囲の相続人には、遺産の一定割合について相続人としての地位に基づく権利が保障されています。これを遺留分といいます。この遺留分を侵害された相続人は、受遺者などに対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
この遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由を前提として、近親者である相続人の生活保障や財産形成への協力に対する評価など、遺産に対する一定の期待を保護することに意義があります。このように、遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由を犠牲にしてでも、一定の範囲の相続人の期待権を保障しているのです。
相続人の中で遺留分が認められているのは、配偶者、子、直系尊属です。兄弟姉妹には遺留分が認められていません。子の代襲相続人は被代襲者である子と同じ遺留分が認められています。ただし、相続欠格、相続人廃除、相続放棄によって相続人としての権利を有しない者は遺留分が認められません。
遺留分の割合は、被相続人の財産全体に対する割合として定められています。①相続人が直系尊属のみである場合は、被相続人の財産の3分の1、②相続人が、配偶者のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属、子のみである場合は、被相続人の財産の2分の1です。この遺留分に各自の法定相続分を乗じたものが、各自の遺留分となります。
例えば、相続人が配偶者と子3人である場合は、配偶者の遺留分は、1/2×1/2=1/4、子3人の遺留分は、1/2×1/2×1/3=1/12となります。もし、子の1人が被相続人より先に死亡しており、その者に子が2人いる場合における、その代襲者の遺留分は、1/12×1/2=1/24となります。代襲者は被代襲者の遺留分を承継するからです。なお、共同相続人の中に相続放棄をした者があれば、他の相続人の遺留分が結果として増大することになります。相続放棄をした者は、初めから相続人でなかったものとみなされるからです。
(司法書士・行政書士 三田佳央)