相続はいつからどこで開始するのか

相続は、人の死亡によって開始します。人の死亡は、脈拍停止・呼吸停止・瞳孔散大(通常より瞳孔が大きくなること)によって判断されています。ただ、死の概念に脳死が含まれると、相続の場面でどのように扱われるべきかという問題が残るとされています。

失踪宣告がなされた場合も死亡したものとみなされるので、相続が開始します。失踪宣告には普通失踪と特別失踪があります。前者は、不在者の生死が7年間明らかでないときに、家庭裁判所が審判によって失踪を宣告し、7年間が経過した時に死亡したものとみなされるものです。後者は、水難などの危難に遭遇した者の生死について、家庭裁判所が審判によって失踪を宣告し、その危難が去った時に死亡したものとみなされるものです。これは、不在者の生死不明の状態が長期間続くことにより、その者をめぐる法律関係を確定することができず、関係者に不都合が生じることを解消するための制度です。

また、水難などの危難に遭遇したが死体が発見されない場合、諸般の事情から死亡したことが確実視されるときは、取り調べをした官庁または公署が死亡の認定をし、戸籍に死亡の記載をすることになり、死亡したものとして扱われます。これを認定死亡といいます。これは、死亡の蓋然性が高い場合に、一応死亡したものとして取り扱うという便宜的な制度です。

相続が開始すると、相続人による遺産の共有が始まることになります。これは、相続人が被相続人(死亡した者)の死亡の事実を知っているか否か、死亡届を出したか否かを問いません。財産の所有者が存在しない状態を避けるためです。その後、相続人同士による遺産分割協議を経て相続手続をすることにより、相続人の固有財産となっていきます。

相続が開始した時に相続人として扱われるためには、相続が開始した時に生存していなければなりません。夫と子が同じ危難に遭遇して死亡した場合に、どちらが先に死亡したのかによって相続関係が異なる結果となります。夫Aが子Cより先に死亡していれば、妻Bと子Cが相続人になり、次にCが死亡したことによりBが相続人になり、結果的にBが遺産のすべてを相続することになります。これに対し、CがAより先に死亡していれば、このAとBが相続人となり、次にAの死亡によりBと夫の親Dと相続人となり、Bが遺産のすべてを相続することにはなりません。このため、どちらが先に死亡したのかという事実の証明は重要なものであるといえます。しかし、実際には、このような状況で死亡の先後を証明することは不可能に近いといえます。そこで、複数の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、同時に死亡したものと推定されることとなっています。したがって、上記の例では、AはCの相続人にはならず、CもAの相続人にはならず、Cの遺産はBが相続し、Aの遺産はBとDが相続することになります。

相続が開始する場所は、被相続人の住所地とされています。相続に関する裁判手続の管轄を明らかにするための規定です。ただ、相続放棄・遺産分割調停などの相続に関する裁判手続の管轄については、家事事件手続法などによって詳細な規定があります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)