個人再生手続における住宅資金貸付債権に関する特則1

住宅ローンを利用している多重債務者が、個人再生手続をそのまま利用すると、住宅ローン債権にかかる抵当権が実行されて、その結果、マイホームを失うことになってしまいます。個人再生手続が開始された時点で住宅ローン債務について債務不履行になっていると、その債務を担保する抵当権は個人再生手続とは別の手続によって競売をすることができるからです(これを「別除権」といいます。)。また、住宅ローン債務について債務不履行になっていない場合であっても、個人再生手続を利用しようとすると、住宅ローン債務の返済がいったん停止するため、期限の利益を喪失することになり、一括返済を迫られる事態になってしまいます。そのため、再生計画に住宅資金貸付債権に関する条項を定めることにより、債務者がマイホームを手放すことなく再生計画に従って債務の返済をして、経済生活の再生をすることが可能となります。

住宅資金貸付債権の特則によってこの特別条項を定めることができるのは、対象となる債権が住宅資金貸付債権(住宅ローン債権)である場合が原則です。住宅資金貸付債権の要件は、①貸付資金が、ⓐ住宅の建設または購入、ⓑ住宅の用に供する土地または借地権の取得、ⓒ住宅の改良、のいずれかの行為に必要なものであること、②分割払いの定めのある債権であること、③その債権またはそれを保証した保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていることです。

①は、住宅に設定されている抵当権が、住宅の建設・購入などと無関係なものであるときは、住宅ローン債務者の経済生活の再生を目的とするこの特則の対象とならないことを意味します。ここにいう「住宅」とは、債務者の所有する、債務者が自己の居住の用に供する建物をいいます。二世帯住宅や店舗兼用の建物であっても、「住宅」に該当することがあります。

②は、1回払いの場合は、そもそもこの特則の対象とはならないことを意味します。

③は、抵当権が設定されていない場合は、その住宅ローン債権は、他の債権と同様に再生手続の開始により当然に弁済が禁止されるため、あえて特則を設ける必要がないことを意味します。また、住宅ローン債権自体ではなく保証会社の求償権の担保として抵当権が設定されている場合も、この特則の対象となります。なお、住宅資金貸付債権者が複数いる場合には、必ずその全員を対象とした特則条項を定めなければなりません。一部の債権者についてのみ特則条項を定めたとしても、他の債権者が抵当権を実行してしまうと特則の目的を達成できないからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)