「相続させる」旨の遺言と異なる遺産分割協議の効力

Aが、「①預貯金は妻Bに相続させる。②甲不動産は長男に相続させる。③乙不動産は長女に相続させる。」という内容の遺言を残して死亡しました。その後、相続人であるB・C・Dは、「①預貯金はB・C・Dがそれぞれ3分の1の割合で取得する。②甲不動産はC・Dがそれぞれ2分の1の割合で取得する。③乙不動産はBが3分の2・Cが3分の1の割合で取得する。」という内容の遺産分割協議をしました。このような、「相続させる」旨の遺言と異なる遺産分割協議は有効であるといえるでしょうか。

裁判例では、このような遺産分割協議は有効であるとしています。最高裁の判例によれば、「相続させる」旨の遺言は、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに遺産が相続人に相続により承継されるものであると解されています。しかしながら、このような遺言をする被相続人の通常の意思は、相続人間で無用の紛争が生じることを避けるためであるから、この遺言と異なる遺産分割協議がなされても被相続人の意思に反するとはいえません。また、法的にはこの遺言によって一旦は遺言に従って遺産の帰属が決まることになるが、このような遺産分割協議は、相続人間における遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であり、その効果は通常の遺産分割と同様に被相続人が死亡した時に遡ることを認めることが実態に即しているといえます。

実務では、以前は、遺言と異なる遺産分割協議に基づく相続登記の申請はできない取扱いがなされていましたが、現在では、遺言書と遺産分割協議書を添付して、このような遺産分割協議による相続登記を申請することができる取扱いがなされています。この相続登記の申請は、遺言の内容に従った登記申請を経ることなく、直接、遺産分割協議の内容に従った相続登記の申請をすることができます。なお、この遺言に遺言執行者があるときは、遺産分割協議をする際には、この遺言執行者も参加する必要があります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)