個人再生手続における住宅資金貸付債権に関する特則2

個人再生手続における債権は、手続開始により弁済が禁止されます。住宅ローン債権も個人再生手続における債権であるため、手続開始により弁済が禁止され、その結果、債務不履行により期限の利益を喪失し、残債務の期限が到来してしまいます。このような不都合を回避するために、債務者の申立てにより、裁判所は、住宅資金貸付債権の特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生計画認可の決定が確定する前でも、その弁済をすることを許可することができます。再生計画認可の見込みがあれば、他の債権者が害されるおそれがないと考えられるからです。

住宅について特別条項の対象とはならない他の抵当権などの担保権が設定されているときは、特別条項を定めることができません。この場合は、他の担保権が別除権として実行されると、結局、住宅を手放すことになってしまうため、特別条項を定める目的を達成することができないからです。また、住宅以外の不動産が特別条項の対象となる抵当権の共同抵当物件となっている場合で、その不動産について特別条項の対象とはならない後順位の担保権が設定されているときも、特別条項の対象とはなりません。このような場合、共同抵当物件に対して住宅ローン債権の抵当権者による実行がされると、後順位の担保権者が住宅に対する抵当権に代位することになるからです。

住宅資金貸付債権の特別条項とは、債権者の有する住宅資金貸付債権の全部または一部を変更する再生計画の条項です。住宅資金特別条項とおける権利変更の内容は法に定められたものに限定されます。住宅ローン債権者に対しては再生計画案についての議決権が認められていないため、その利益が十分に保護されると考えられる場合に権利変更の種類を限定するためです。

特別条項としては、①期限の利益回復型、②リスケジュール型、③元本猶予期間併用型、④合意型の4種類があります。①は、将来のローンの弁済分は当初の住宅資金貸付契約に従って支払いながら、計画認可時に支払いが遅れている元本・利息・損害金について、再生計画で定める弁済期間(原則3年以内)内に付加して支払うものです。②は、債務の弁済期を当初の最終弁済期から後の日に定めるものです。一定の制約があります。③は、一般債権の弁済期間内は、住宅ローンの元本の一部の支払いを猶予し、この期間内の弁済額を抑えることを可能なものとするものです。利息の支払いは必要です。④は、住宅ローン債権者の同意があれば、上記①から③に述べた内容とは異なる権利変更の内容を有する特別条項を定めるものです。

なお、実務では、住宅資金貸付債権については特に権利変更をしない条項を定めることが多く利用されています。これは「そのまま条項」と呼ばれています。消費者金融等からの借入れをしながらも、住宅ローンは支払いを続けている債務者が、この条項を利用して個人再生手続を申し立てる場合が多いようです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)