財産管理等委任契約の課題

財産管理等委任契約の受任者が事務処理をするうえで困難なのは、財産管理よりも身上監護に関することであると考えられます。受任者が介護保険制度を理解して適切なケアプランを作成してサービスを提供することには無理があります。受任者としては、地域包括支援センターなどに相談してケアマネージャーにケアプランの作成を依頼したり、社会福祉協議会などと連携して情報交換したりして、本人が必要とするサービスを提供する体制を整えることが肝要です。

受任者が、金融機関の窓口で取引をすることについて、対応できる金融機関が少ないのが実情です。公正証書による財産管理等委任契約書を提示しても、さらに委任状を求められたり、本人の意思の確認を求められたりすることが少なくありません。現状では、事前に金融機関に手続について確認してから取引をした方が良いでしょう。

財産管理等委任契約においては、受任者に取消権はありません。そのため、本人の判断能力が低下して訪問販売の被害に遭うようなことがあっても、受任者が本人を保護することができません。判断能力が低下した本人を、取消権を行使して保護する必要性が生じたときは、任意後見契約に移行せずに、法定後見制度に移行した方が良いでしょう。

高齢者などについて、事実上親族が財産管理を行っていることは少なくありません。しかし、親族による財産管理の多くは、委任契約を締結して委任事務を遂行しているのではなく、事実上預金通帳を預かり、自己の判断で払い出して支払いをしているというのが現実です。本人に十分な判断能力があるのか疑わしい場合もあります。このような状況が続くと、後に他の親族との間で紛争が生じているのが現実です。また、本人との関係においても、財産管理の過程で経済的虐待が生じていたり、障害ある子どもの財産を管理していた親が高齢になり、本人の保護が不十分になったりしています。このように親族による財産管理には限界があることを認識して、法定後見制度に繋げていけるように社会的に支援していくことが必要であるといえるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)