財産管理等委任契約におけるその他の事務

婚姻・離婚・縁組・離縁などの行為(このような行為を「身分行為」といいます。)は、本人自身が決定すべきことであって代理行為になじまないので、委任事務の対象とはなりません。

本人の入院中などに病院側から手術等の医療行為について、本人や家族に同意を求めることがあります。この医療行為の同意を受任者に代わりにしてもらいたいという場合に、医療行為の同意を委任事務とすることができるかが問題となります。医療行為は身体への侵襲を伴うものであるから、その同意や拒否は本人しか行うことができないため、委任事務の対象とすることはできないと考えられています。特に、財産管理等委任契約の場合、本人に判断能力が残っていることが前提なので、治療の選択や同意は本人が行うことが可能です。しかし、身寄りのない高齢者にとって治療などについて誰にも相談できないまま独りで判断することが極めて難しい場合もあります。そのような場合は、受任者において本人が判断する過程で様々なサポートをしていくことで、本人が安心できると思われます。

また、病院側や施設側から、本人の延命治療について意見を求めてくることがあります。これも本人自身が決定すべきことなので委任事務の対象とはなりません。事前に本人から延命治療についての希望を聴取しているなら、それを本人の意思として、医師や関係者に伝えることは可能であり有益なことでしょう。

病院に入院したり施設に入所したりする際に、保証人や身元引受人になることを求められることがあります。これは、受任者自らのサービスの提供であるため、委任事務の対象とはなりません。このことを知らない病院や施設は少なくありませんので、入院や入所の際にきちんと説明をしておく必要があります。最近では、任意後見契約や死後事務委任契約を締結していれば、保証人がいなくてもよいという病院や施設が増えています。

このように、財産管理等委任契約によって受任者に委任することができる事務には、様々なものが対象なるのと同時に、その対象とならないものもあります。この委任契約を締結する際には、弁護士や司法書士などの専門家に相談したうえで、判断することが肝要ではないでしょうか。

(司法書士・行政書士 三田佳央)