任意後見契約における委任事項

任意後見契約によって、本人が任意後見受任者に対し委託する事務の内容は、「自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部」であり、任意後見契約は「代理権を付与する委任契約」であるとされています。この定義の委任事項に該当する内容のみ、任意後見契約の対象となり、代理権目録に記載され、任意後見の登記がされ、登記事項証明書に記載されることになります。これ以外の内容については、代理権目録に記載されず、登記事項証明書に記載されることもありませんが、契約書の内容として記載することはできます。

任意後見契約の委任事項は、精神上の障害により判断能力が低下した時から、死亡する時までの本人の生活、療養看護及び財産管理に関する法律行為であり、事実行為は含まれません。

財産管理に関する法律行為の例として、①不動産など重要な財産に関する管理・処分、②預貯金の管理や払戻しなど金融機関の取引に関する事項、③年金など定期的収入の受領、公共料金などの定期的支出の支払い、④生活費の送金や日用品等の購入、⑤遺産分割・相続放棄など相続に関する事項、⑥保険契約の締結・保険金の受領など保険に関する事項などがあります。

法定後見制度と異なり、居住用不動産の処分について、家庭裁判所の許可を要件とする規定と同様の規定は設けられていません。本人が自らの意思で代理権を付与したことに対し、家庭裁判所が介入する必要はないと考えられたためです。ただし、本人の権利擁護のため、代理権を行使する際には、任意後見監督人や家庭裁判所の監督機能を活用するなどの工夫が必要であると考えられるでしょう。

生活または療養看護に関する法律行為の例として、①介護契約・施設入所契約など福祉サービス利用契約に関する事項、②要介護認定の申請に関する事項、③医療契約・入院契約などがあります。

また、これらの法律行為に関連して、登記・供託の申請、税金の申告、費用の支払い、戸籍謄抄本。住民票等の請求などの行為も対象となります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)