家族信託とは12

家族信託は、長期的に本人の意思を反映させて信託財産を管理・処分することができる機能を有しており、民法上の委任契約、成年後見制度、遺言制度や、任意後見制度ではできなかった財産管理・処分を可能なものとしています。しかし、だからといって、何でもできる「打ち出の小槌」のようなものではありません。特に、家族信託を、法律の趣旨から潜脱するような「脱法行為的」に用いる場合には、その信託行為が無効とされることもあり得ます。実際に、遺留分制度を潜脱する意図でなされたため、公序良俗に反しているとして信託契約を無効とした裁判例があります。この裁判例では、経済的利益の分配が想定されない所有不動産を信託財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効であるべきとしています。

信託契約書を作成するにあたっては、どのような目的で信託をするのかを確認することは、いうまでもなく重要ですが、その目的がたとえ正当なものであったとしても、様々な視点から信託契約書を作成することも、また重要であるといえます。正当な目的のために信託契約書を作成しても、契約上の他の要素等との関係で脱法行為として認定されてしまうと、この信託契約が公序良俗に反して無効であると判断されてしまうおそれがあるからです。

この裁判例は、土地の一体的な管理を相続人に行わせることは、信託によらずとも遺贈等によっても可能であることや、本件信託が信託法上認められた後継ぎ遺贈型受益者連続信託であるとしても、民法上認められた遺留分減殺請求権の行使を妨げる内容の信託が許されることになるものではないことを指摘しています。信託契約書を作成する際には、他の法制度との関係を考慮する必要があることになりますので、信託契約書の作成を検討されるときには、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。

(司法書士・行政書士 三田佳央)