家族信託とは9

ここまでは、信託の仕組みの概要を説明しましたが、ここからは、家族信託の活用についての具体的な事案を紹介します。

Aは高齢のため、自宅で生活できなくなったときは、介護施設に入所するつもりでいます。しかし、介護施設での生活費に不安があるため、入所したら自宅を売却して、その代金を介護施設での生活費に充てようと考えました。ただ、介護施設に入所してから自宅を売却するまでに、Aが認知症になってしまうと自宅を売却することができなくなります。このような場合には、、Aは、自己を委託者兼受益者とし、子Bを受託者とし、Aの安定した生活のために自宅を管理・処分することを目的とした信託を設定することが考えられます。このような信託を設定すると、たとえAが認知症になったとしても、Bは、Aのために、その自宅を管理し、Aが介護施設に入所したら、自宅を売却して、その代金を介護施設での生活費に充てることができるようになります。

この他にも、アパートやマンションの管理を目的として信託を設定する方法もあります。特にアパートやマンションの所有者が高齢であるときは、所有者の死亡や認知症の発症により、適切な管理ができなくなるおそれがあります。そのような場合に備えて、信託を活用して所有者の信頼できる者にアパートやマンションの管理を委ねておくことは、適切な管理を継続させるための有効な手段といえるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)