戸籍謄抄本一式に代わる証明書

各種の相続手続きを進めるためには、法定相続人を証する戸籍謄抄本を金融機関や法務局などに提出する必要があります。相続手続きをする金融機関や法務局が複数ある場合は、まず特定の金融機関等に戸籍謄抄本一式を提出して相続手続きをします。その手続きが終わると戸籍謄抄本一式が返却されます。そして、次の相続手続きに、返却された戸籍謄抄本一式を使用することになります。つまり、相続手続きをする金融機関等が複数あると、戸籍謄抄本一式が返却されるのを待たなければならず、それだけ相続手続きをするのに時間がかかってしまいます。そこで、この不都合を解消するするための制度が、「法定相続情報証明制度」です。

この制度は、相続人が、法務局に対して、被相続人と法定相続人の情報を記載した書面(これを「法定相続情報一覧図」といいます。)の保管とその写しの交付の申出をすることによって、法定相続情報一覧図の写しを取得することができます。法定相続情報一覧図の写しは、被相続人の法定相続人を証明することができますので、戸籍謄抄本一式に代えて相続手続きに使用することができます。法定相続情報一覧図は無料で取得することができるので、相続手続きに必要な枚数を取得すれば、戸籍謄抄本一式の返却を待つ時間を短縮することが可能となります。相続手続きが複数ある場合に、この制度を利用すれば、その手続きを同時に進めることができ、時間短縮に繋がります。

この制度を利用するには、まず、戸籍謄抄本一式を取得する必要があります。この点は、この制度を利用しない場合と変わりません。ただ、被相続人の出生からの戸籍謄本が必ず必要とされています。そのため、被相続人の出生時が外国籍であった場合など、被相続人の出生からの戸籍謄本を取得することができないケースでは、この制度を利用することができません。そのようなケースでも、相続手続き自体はすることができます。

法定相続情報一覧図の写しを取得するには、法定相続情報一覧図と戸籍謄抄本一式その他の添付書類と申出書を、管轄の法務局に提出します。その後、法務局が法定相続情報一覧図の写しを作成して、それを受け取ることになります。そして、取得した法定相続情報一覧図の写しを相続手続きに使用して、手続きを進めます。

ただ、法定相続情報一覧図の写しを使用して、相続手続きをする際には、以下の点において注意が必要です。①法定相続情報一覧図の写しには、相続放棄をした事実などは記載されないので、相続手続きをするときは、相続放棄申述受理証明書などの書類の添付は省略することができません。②法定相続情報一覧図の写しには、遺産分割協議の内容は記載されないので、相続手続きをするときは、遺産分割協議と印鑑証明書の添付は省略することができません。 複数の相続手続きを同時に進めるには、上記のような省略することができない書類を手続きに必要な枚数を用意しなければなりません。遺産分割協議書と印鑑証明書を複数用意することは、枚数や事情によっては相続人の負担を増加させてしまいます。このような事情からすると、「法定相続情報証明制度」を有効に活用できる機会は、あまり多くないのかもしれません。

(司法書士・行政書士 三田佳央)