成年後見制度の課題4

本人に成年後見人が就任している場合に、本人が亡くなったときには、後見が終了し、成年後見人としての地位も終了することになります。後見が終了した後の成年後見人の主な事務としては、後見の計算をして管理財産を相続人に引き渡すことです。未払いの債務について支払いをしたり、本人の遺体を引き取ったり、葬儀を執り行ったりすることは、後見が終了した成年後見人の義務ではありません。相続人による対応が困難な場合や急迫の事情がある場合には、事務管理や応急処分義務の一環として上記の事務を行うことがあるにすぎません。ただし、この事務管理や応急処分義務によって、どの範囲までの事務まで処理できるかは明確ではありません。

そこで、民法改正により、後見が終了した後の成年後見人の権限について規定が設けられました。これによると、本人が死亡した場合において、必要があるときは、相続人が本人の財産を管理することができるに至るまで、①特定の財産の保存に必要な行為、②弁済期が到来している債務の弁済、③遺体の火葬や埋葬に関する契約を締結その他本人の財産の保存に必要な行為、をすることができることになっています。ただし、相続人の意思に反することが明らかなときは、上記の行為をすることができません。

③の行為には、葬儀を執り行うことは含まれていません。また、③の行為をするには家庭裁判所の許可を得る必要があります。そのため、①②の行為をするために、預金口座から払い出しを受けるには、家庭裁判所の許可が必要になります。

ただ、家庭裁判所の許可が必要な行為であっても、事務管理や応急処分義務の要件を満たす場合には、家庭裁判所の許可がなくても行うことができます。その意味で、上記の規定があるからといって後見終了後の成年後見人の事務の範囲が明確になったとはいえません。また、この規定は、成年後見人のみを対象としており、補助人や保佐人には適用されません。補助人や保佐人に本人死後の権限を認めると本人の生前よりも強い権限を持つことになりかねないからです。本人の生前のときの代理権の範囲内で、本人の死後の権限を与えることにすれば、その権限は明確であり、補助人や保佐人についてもその権限を与えても不都合は生じないのではないかと思われます。併せて、遺体の引き取りや葬儀費用についても立法による解決が望まれます。

なお、上記のとおり、後見が終了した後の成年後見人の権限が定められましたが、この規定は、あくまで後見終了後の成年後見人の権限を定めたものであり、その義務を定めたものではありません。したがって、後見終了後の成年後見人が上記の行為を必ずしなければならないものではありません。この規定によって定められている行為をしなければならないときは、応急処分義務として対応することになります。