本人が死亡した場合における成年後見人の事務2(死後事務)

本人が死亡した場合において、成年後見人の主な事務は、後見事務の計算とその報告、そして相続人に管理財産の引渡しをすることです。本人の死後の法的な処理は相続関係の問題として扱われます。したがって、死後の財産管理や処分は、相続人がすべき事務であり、成年後見人の事務に含まれないのが原則です。

例えば、施設の利用料や入院費などが未払いであっても、成年後見人が管理財産から支払う必要はありません。成年後見人が管理財産を相続人に引き渡して、そこから相続人が支払うことになります。葬儀費用についても同様に成年後見人が管理財産から支払う必要はありません。

しかし、実際には、本人に身寄りがなかったり、相続人が引渡しを拒んだりして、相続人への管理財産の引渡しに時間がかかってしまうケースがあります。このようなケースでは、事実上、成年後見人が対応せざるを得ません。成年後見人は、相続人のためにその事務を管理することになります。例えば、支払時期が到来している施設の利用料や入院費等の支払いをすることなどです。ただし、債務超過になっているケースでは、他の債権者とのトラブルになることを避けるため、成年後見人の判断で支払いをしない方が良いでしょう。

また、本人が死亡したら、本来は相続人が死亡届を市役所等に提出するのですが、相続人による対応が困難なケースでは、成年後見人が死亡届を提出せざるを得ないことがあります。成年後見人も死亡届を提出することが戸籍法によって認められているからです。

その後、埋火葬をしなければなりませんが、相続人による対応が困難なケースでは、本来は死亡地の市町村長が行うことになっています。したがって、成年後見人が埋火葬を行う必要はありませんが、自治体の対応が遅く、施設や病院に長期間に渡り遺体を安置することができないため、事実上、成年後見人が埋火葬を行わざるを得ないことがあります。

遺体の引き取りは、相続人の権利であり義務でもあるので、成年後見人が本人お遺体を引き取る必要はありません。相続人による遺体の引き取りが困難なケースでは、葬儀社等に遺体の安置から埋火葬までを依頼し、その葬儀社等に遺体を引き取ってもらうと良いでしょう。

なお、平成28年の民法改正によって、必要があるときには、相続人が相続財産を管理することができるときまで、特定の財産を保存する行為をしたり、支払時期が到来している債務の弁済をしたりすることができる旨が明記されました。「することができる」のであって成年後見人の義務でないことには変わりはありません。

また、この改正によって、成年後見人は、家庭裁判所の許可を得れば、遺体の埋火葬をすることができるようになりました。ただ、実際には、家庭裁判所の許可が得られるまで遺体を安置しておくことが難しいケースもあるでしょう。このようなケースでは、家庭裁判所と協議の上、許可を得ることなく成年後見人が埋火葬を行うといった対応が考えられます。私は、実際にこのような対応をしたことがあります。